大規模な特殊詐欺や広域強盗事件の容疑で、フィリピンから指示役と見られる男4人や、かけ子の男女4人が強制送還されたニュースが記憶に新しい。近年、にわかに注目されるようになった「闇バイト」の実態とは──。ノンフィクションライターの高橋ユキが、実際の事件をもとに解説する。
特殊詐欺グループの粗暴化
全国で発生した連続強盗事件の主犯格と目される4人がフィリピンから強制送還されたのは今年2月。彼らはフィリピンを拠点として60億円以上の被害を出したとされる特殊詐欺グループの幹部であるとして日本に送還され逮捕。以降、特殊詐欺事件などでの再逮捕が続いている。連続強盗事件では「ルフィ」を名乗る指示役が、実行犯らに指示を送っていたことがわかっているが、4人のうち特殊詐欺グループの主犯格である今村磨人容疑者(39)がこの「ルフィ」であると特定された。現在「ルフィ」が京都市中京区で昨年5月に起きた高級腕時計が奪われた強盗事件を指示したとして捜査が続いている。
特殊詐欺グループが粗暴化、凶悪化している実態は、神奈川新聞報道部記者・田崎基が著作『ルポ特殊詐欺』で明らかにしていた。
「司法担当になってから、ある殺人未遂の公判を取材したのですが、傍聴してみると、被告人は特殊詐欺の『出し子』だったんです。詐欺を働く中で発生したトラブルが発端で、指示役に追い詰められ、もう俺は逃げきれないといった思いを募らせたようです。最後に特殊詐欺の仕事を紹介した相手を殺してから俺も死ぬ、と決心し、相手のところに行くと、そこには自分から離れていった元彼女がいた。さらに激昂し、その元彼女を刺してしまったという事件でした。
特殊詐欺って詐欺だけじゃないのではないか? というところが取材のきっかけでしたが、取材を重ねると、やはりそういう事案がものすごく多く、凶悪化粗暴化していました」(田崎)
「闇バイト」──徹底した分業制に落とし穴
複雑な分業制であることも特徴だ。入口は特殊詐欺も強盗も同じくSNSの闇バイト募集がスタンダード。実際に現金やキャッシュカードを受け取る役割を「受け子」、騙し取ったキャッシュカードを使い現金を引き出す役割を「出し子」と呼び、名簿などをもとに、騙しの電話をかける役割は「かけ子」。SNSで募集をかけるのはリクルーター、その他に指示役がいる。実際に特殊詐欺やそこから派生する事件の公判からは、徹底した分業制がみて取れる。
ある電子計算機使用詐欺などの事件では、沖縄で特殊詐欺グループに属している被告人が、主にコンビニATMを転々としながら出し子をやっていた。夜中にコンビニからコンビニへと車を走らせ、ATMで金を下ろすといったことを繰り返していた。