要求がエスカレートしても、抜けられない負のループ
「ルフィ」を頂点とするグループと同様、特殊詐欺をベースにして、その仲間内で別の“案件”へと展開していくことも珍しくはない。北海道の特殊詐欺グループにいた男らは、フィッシングの手口で入手したクレジットカード情報を使い「出前館」でワインを大量注文。これをすぐさま売りさばき、利益を得ていた。さらにはテレグラムのチャンネルで交流していた相手が暗号資産で利益を得ていると知るや、その男性を監禁し、現金やキャッシュカードを奪った上、ATMでその男性の預金90万円を引き出し奪った。
粗暴化も止まらない。このグループの「かけ子」が別の仲間と組んで特殊詐欺を始めたという情報を掴み、かけ子をホテルへ連れ込み監禁。足で蹴るなど暴行したうえ、自慰行為を強要し、それを撮影するなどした。
かけ子は、自身も特殊詐欺に手を染めていることから、こうした被害に遭ってもすぐに警察に行くことを躊躇するのか、「かけ子をやった」と警察に出頭し事件を打ち明けたのは、被害に遭ってから3カ月も後のことだった。
自分の関わる仕事の全体像が分からないまま、あるいは嘘をつかれ半ば騙されたようにして特殊詐欺に加担する者もいれば、抜けたくとも個人情報を伝えてしまっていることから抜けられない者もいる。上位者の要求が次第に粗暴なものへとエスカレートしていっても、応じてしまう。
割り切った報酬目的のこともあれば、脅されて抜けるに抜けられない状態のなか、加担することもある。
精神科医が警鐘 看過してはいけないこと
SNSなどを通じた「闇バイト」への参加が後を絶たない現状について、精神科医の小出将則は「社会的な孤立や、本人の精神的な問題も見過ごしてはいけない」と指摘する。コロナ禍でソーシャル・ディスタンスが強調され、人間関係の希薄化に拍車をかけた。連続強盗や特殊詐欺事件といえば凶悪な犯人像がイメージされがちだが、社会的弱者とも言える人も取り込まれているのが現状だ。
「例えば注意欠如多動症(ADHD)などの発達障害の傾向を持つ人にとっては、手軽にアクセスできるSNS社会の広がりで犯罪に巻き込まれやすい素地が出来上がったとも言える。ADHD患者は衝動性が高く、自分の関心のあることには過集中するので、知らず知らずのうちに、こうした特殊詐欺の協力者になってしまう実例もある」(小出)
小出医師は、闇バイトをきっかけに犯罪に手を染めた強盗犯の精神鑑定をした実績を持つ。「場合によっては、自分の身を守ることの苦手な『供述弱者』が加害者に反転してしまうことがあることをみんなが知る時期に来ているのではないか」と警鐘を鳴らす。