日本人デザイナーとしてのミッション
約8年間のミラノでの経験を通して、村田はあるミッションを見つけ帰国を決めた。海外経験のある日本人デザイナーとして、日本の素晴らしさを武器に世界で戦う──。2018年、村田はラグジュアリーブランドHARUNOBUMURATAを立ち上げた。
日本の生地の輸出額は2020年時点で2000億円以上と世界的に見ても高い水準にあるにもかかわらず、ファッション製品の輸出は先進国の中でも極めて少ない。日本人にしかつくれないものを世界に発信したいと考え、行き着いたブランドコンセプトが「Luxuary in Silence(静かなる美)」だった。
「海外では寿司、着物、金継ぎなど目に見える和的な要素以外にも、ZENとして知られる精神のあり方や、OMOTENASHIなどの行為も有名です。評価されるべき『日本らしさ』はまだまだあるはずですが、私が注目したのは『静かなる美』。日本の上品さに隠れた美しさを、ブランドのコンセプトとして落とし込みました」
着た時の気持ちの変化、小さな仕草の変化、意識の変化こそが真のラグジュアリーであると再定義した。
肝心なのは売り方だ。コレクションブランドの場合は卸売りが多く、コレクション発表と合わせて展示会を開き、バイヤーに買い付けてもらうのが一般的だ。村田は長期的に買い付けてくれるバイヤーとの関係性を大事にしつつも、顧客に直接ブランドのコンセプトと世界観を発信したいと考えていた。そこでHARUNOBUMURATAでは、卸売りとD2Cのハイブリッドな販路戦略をとることに。
「0→1のビジネスでは認知拡大がとにかく大事で、最低3〜4年は必要だと予想していました。さらに重要なのは認知の先です。実際に商品を手に取ってもらえるフェーズを私は『浸透』と呼んでいます。さらに、ただ商品を知っているだけでなく、恋に落ちるように憧れへと変わる一歩が大切だと思っています。『憧れ』を抱いてきた商品は、手に入れた時の感動が大きいですよね」
こうして村田は展示会にバイヤーだけでなく一般客も招待することに。直接顧客にブランドのコンセプトと思いを伝えることで、ファンになってくれた人がSNSで拡散してくれる。ハイブリッド戦略は功を奏し、現在HARUNOBUMURATAの売り上げは展示会で注文してもらうプレオーダーと卸売りの半々となっている。
「ブランドの裏にいる人の存在が見え、直接コンセプトを聞くことで手に取った商品への思い入れが強くなります。単なる商品が『作品』へと変わり、自分が恋に落ちた作品を手に入れるプロセスの特別感こそ、『ラグジュアリー』だと考えています。これは自らのブランドを立ち上げてから気づいた、もう1つのラグジュアリーのあり方です」