互いに20代の頃に知り合った金さんと筆者の共通の話題は満洲だった。筆者は当時から北東アジアにある日本の近代史の舞台を訪ね、現在の姿を知りたいという思いから各地を訪ねていたからだ。
さらに金さんは残留孤児2世という意味では、筆者が親しくしている「ガチ中華」の味坊集団オーナーの梁宝璋さんと同じ境遇でもある。2人は筆者にとって満洲とのつながりを感じさせてくれる友人だ。
そんな縁から、筆者は2016年と2018年の夏、金さんの紹介でサマンの儀式が行われている黒龍江省寧安市の依藍崗村をはじめ、この作品に登場するいくつかの村や博物館、切り絵作家やサマンなどの人物を訪ねている。
そして、サマンと呼ばれる人たちも、普段は儀式を執り行う映像で観た躍動感はなく、寡黙な農民の1人であることを知った。
金さんは、「天空のサマン」というドキュメンタリー映画を監督することで、自分のルーツである民族とその文化が消滅していく最後の姿を見届け、記録するという歴史的な役割を果たすことになったが、その想像を超えた重責を、私たちはこの作品を観ることで目撃することになる。