同国の石炭需要減少の主な理由の1つは、天然ガスが手に入りやすくなり、価格が手頃になったことだ。水圧破砕法(フラッキング)をはじめとする高度な掘削技術が登場したことで、天然ガスの生産量が大幅に拡大し、それにともない価格も下落した。天然ガスは石炭より温室効果ガスの排出量が少なく、経済的にも現実的になり得るため、多くの火力発電所が燃料を石炭から天然ガスに転換している。
同時に、風力や太陽光といった再生可能エネルギーも大幅に増加している。コストの低下や政府の優遇措置により、再生可能エネルギーは発電にとって魅力を増しつつあり、石炭火力による電力の必要性は低下している。
特に石炭火力発電所からの炭素排出に対する環境規制の強化が、この転換を促すこととなった。こうした規制の強化は、大気汚染や水質汚濁、気候変動への懸念に対処するために実施された。規制によって、石炭火力発電の競争力は、より環境に優しい発電手段に比べて低下している。
石炭は二酸化炭素排出量が最も多い化石燃料であることを考えると、こうした動きは前向きな進展だ。だが、米国の石炭需要は世界と比較して小さいことに注目しなければならない。同国は世界の石炭の6.6%しか消費していないため、米国外の石炭消費動向こそが重要なのだ。
その点では、それほど良い兆候はない。多くの発展途上国、特にアジア諸国では石炭消費量は依然として高く、増加傾向にある。これは、石炭が比較的安価で豊富なことと、同地域の工業化が急速に進んだことによる。
例えば、中国は世界の石炭の55%を消費しており、その消費量は増え続けている。全体として、アジア太平洋地域は世界の石炭消費量の81%を占め、現在も増え続けている世界の二酸化炭素排出量の大部分を占めている。
中国の石炭需要は6年連続で増加しており、2021年と22年には過去最高を記録した。現在の中国の猛暑によって電力需要は急拡大し、同国の1000を超える石炭火力発電所では、前例のない量の石炭が消費されている。中国は今年、石炭消費量で過去最高を更新する勢いだ。