ヘルスケア

2023.07.27 07:30

がん治療で進むAI活用 予防と診断にも貢献

督 あかり

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世界で6人に1人が、がんで命を落としている今、がんとの闘いのあり方を一変させる可能性を秘めた、デジタルヘルスの革新的技術の研究が進められています。

ヘルスケアの分野では、デジタル技術とデータ駆動型技術が急速に普及しています。こうした技術は、がんとの闘いにおいてもかつてないほど大きな効果をもたらすと期待されています。

世界のリーダーたちは、デジタルヘルス革命により、世界中のヘルスシステムがより公平でサステナブルなものとなるよう、取り組みを推進していく必要があります。本題についてWEFのアジェンダからご紹介します。


がん医療の分野では、近年、CAR-T細胞療法やリキッドバイオプシー、CRISPRによる治療など、注目すべき革新的技術が数多く登場してきています。そのほとんどは、ゲノミクスや病理学、免疫学といった生物科学の分野から生まれています。

その一方で、ヘルスケア全体において急速に普及しつつあるAI(人工知能)やIoT、ロボティクスなどのデジタル技術とデータ駆動型技術も、がんとの闘いにおいてかつてないほど大きな効果をもたらすと期待されています。

がん治療の未来を拓くコンピューター技術

がん治療において、新たなアプローチの可能性を拓いているのがコンピューター技術です。中でも、特に期待が大きいのがAIと機械学習で、個々の患者に対して最適な治療薬を選択する上で多大な効果を発揮し、患者ごとの治療を新たなステージへと導く可能性を秘めています。さらに、これらの技術は、新薬開発にかかる期間を年単位から月単位へと、大幅に短縮させることもできると考えられています。

他のフロンティア技術の応用に関しても、研究が進められています。例えば、量子コンピューティングには、新薬発見と臨床試験を急速に進化させる可能性があるとみられています。量子コンピューティングの応用をめぐっては、がんを重点分野と位置づけた異業種間のパートナーシップが新たに形成されつつあります。

薬物療法だけでなく、予防と診断にも貢献

AIは、新たながんの治療法の開発や統合以外に、がんの早期発見率と予防率の向上にも大きく貢献すると期待が寄せられています。重大な問題である、誤診や診察時の見落としが発生する危険性が最も高い分野の一つががん診療なのです。

先進の研究機関や医療機関では、一般的ながんの診断に最新のAI技術が活用され始めています。例えば、肺がんの診断ではCTスキャンに、結腸がんの診断では内視鏡検査において、アルゴリズムが応用されることで、発見しにくいがんを人間よりも効果的に検知しています。この技術はまだ開発途上ですが、近い将来、がんの早期発見率を飛躍的に向上させることになるかもしれません。

ただし、診療の自動化には安全上の懸念が生じる恐れがあり、患者の医療データの取り扱いに関しても、セキュリティとプライバシーの課題が出てくる可能性を踏まえると、AIなどの新しい技術を導入する上では、適切な規制体制と倫理指針を確立して責任ある利用が徹底される必要があります。
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文=Antonio Spina, Lead, Health and Healthcare, World Economic Forum

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