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2023.07.22 12:00

元サッカー日本代表が選択する独リーグ「2部」の意義

アメリカ戦で具体的に何を突きつけられたのか───。完璧ではないにせよ、Jリーグの舞台でできていたプレーをほとんどさせてもらえなかったと町野は続ける。

「相手のディフェンダーは身長も高く、体もがっしりしている。日本だったらちょっと下がってボールを受けるとついて来ないのに、そこを足ごとガッツリと持っていかれたし、ちょっとでもトラップをミスすれば、すかさず相手のボランチがプレスバックに来る。そこの球際でのインテンシティー(強度)の高さに、本当に大きな違いを感じました」

身長185cm体重77kgの町野は、恵まれた体格だけに頼らず、前線で「何でもできる選手になりたい」と理想を描く。パスを受け、相手を背負いながら時間を作って味方に預け、あるいは振り向いてパスをさばき、敵陣深くまで侵入していってゴールに絡む。

追い求める姿の一丁目一番地、相手を背負う「ポストプレー」が、いざ外国人を相手にすると通用しない。自分を変えるためには屈強な大男たちがゴール前で待ち構える海外、それもヨーロッパへ新天地を求め、それまでの非日常を日常にするしかない。

昨年のカタールワールドカップ後にも海外へ移籍しようと考えたが、条件面などで折り合いがつかなかった。湘南との契約を更新した町野は夏の移籍をにらみながらプレーのクォリティーを上げ、昨シーズンをさらに上回る結果を残そうと決意した。

そして、昨シーズンのドイツ2部で8位だったキールからオファーが届いた。バルト海に面したドイツ北部の町を本拠地とするチームに、いい意味で驚きを受けた。

「クラブのインスタグラムを見ても、相当ごつい選手がチームメイトにもいました。ボールに対してかなりタイトに来るなかで、当然ながらフィジカルの強さや相手を背負うプレーが求められる。一方で向こうに行けば助っ人になる自分は、結果にもこだわらなければいけない。結果を出しながら、いまの自分に足りない部分を成長させていける、と」

交渉はオンラインで行われた。5シーズン目の指揮を執るドイツ人のオレ・ヴェルナー監督、そして町野を評価したスカウトの熱量や期待感が画面越しに伝わってきた。

「湘南の試合映像とキールの試合映像を照らし合わせながら、僕のいいところとよくないところを指摘してもらいました。さらに、もし僕がキールでプレーしたら、こういうプレーがチームを助けてくれる、といった感じで熱くプレゼンしていただきました」

急がば回れ

三重県伊賀市で生まれ育った町野は、兄の影響で3歳のときにサッカーを始め、高校は大阪の名門・履正社へ進学。1年生からレギュラーを射止め、2年生では全日本高校選抜に名を連ねて活躍しているところを横浜F・マリノスに見初められた。

しかし、ルーキーイヤーだった2018シーズンは公式戦のピッチに一度も立てなかった。翌19シーズンには出場機会を求めてJ3のギラヴァンツ北九州へ期限付き移籍。チーム最多の8ゴールをあげて優勝に貢献し、J2に昇格した20シーズンから北九州へ完全移籍。J2でも7ゴールをあげたオフに湘南へ移籍し、J1の舞台に戻って来た。

試合に出られなければ成長できない。J3からはい上がってきた過程を海外移籍にも当てはめた。いま現在の自分を客観視すれば、1部リーグのクラブでは試合に出られないかもしれない。9月には24歳になる年齢も考えれば、マリノス時代の二の舞は許されない。
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文=藤江直人

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