イスラエルの沿岸都市テルアビブは、交通渋滞で悪名高い。機械エンジニアのアサフ・フォルモザも朝晩のラッシュに悩まされていた。市内に駐車スペースを探すにも1時間かかる。仕方なくバイクに乗るようになったが、クルマほどの安心感がなく、雨天時は不便だ。結局、どちらも自宅の車庫に置きっぱなしにするようになってしまった。
「それなら初めからクルマとバイクの両方のいいトコ取りができないか、と考えるようになりました」と、フォルモザは話す。
彼が2014年に、物理学者や自動車デザイナーと共同創業したマイクロモビリティ企業「City Transformer(シティ・トランスフォーマー)」は、超小型の一人乗り小型4輪EVの開発に成功した。「CT-1」は全長約2.5mで幅1.4mだが、折りたたみ機構があり、車輪を収納すると幅は1mになる。後部に荷物を置くスペースがあり、最高速度は時速90kmに達するなど、都市部を走るクルマに必要なものはほぼそろっている。
「快適性に欠ける2輪とムダに大きい4輪の間に“ミッシングリンク”があると思っていました。消費者に新たな選択肢を作りたかったのです」
そう語るフォルモザは、ライフスタイルや環境意識の観点から、若年世代に親和性が高いと考えている。マッキンゼーは、23年4月に発表した調査「モビリティの未来」で、35年までに全世界で従来のクルマを利用する人の割合が16%減り、代わりに公共交通機関やマイクロモビリティの利用者が増えると予測している。各国で進む二酸化炭素(CO2)排出規制も、CT-1のようなEVには追い風だ。24年の夏季五輪を控えるパリでは、内燃機関車の市内への乗り入れを禁止する流れもある。
とはいえ、EVもそれなりにエネルギーを消費する。シティ・トランスフォーマーが変えたいのは、その社名どおり「街」である。フォルモザは乗り物に占拠された自宅の車庫のように、クルマで埋め尽くされた街を解放したいのだ。それは車椅子の利用者が使いやすい歩道や、家族がくつろげる公園になるかもしれない。街のつくりかたが根本から変わるだろう。
EV大手はどこも規模が大きい商用車市場を狙っている。その点は、フォルモザも同じだ。商用車市場は視野に収めているが、最初は消費者向けの販売から始める予定だと話す。「1人乗り自動車が街を走っていれば、いい宣伝になりますよね」
CITY TRANSFORMER◎2014年創業、イスラエルのマイクロモビリティ企業。共同創業者兼CEOは、アサフ・フォルモザ。車輪を収納する折りたたみ機構を用いた1人乗りEV車両の開発に成功。欧州を中心にB2B(商用車市場)での販売を目指す。24年の「CT-1」生産開始を見据え、22年5月のシリーズAラウンドで1000万ドルを調達。B2C(消費者市場)の販売予約も始めている。