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2023.07.20 12:30

北朝鮮に越境した23歳の米軍兵士は生きて帰れるのか?

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韓国と北朝鮮の軍事境界線を許可なく越え、7月18日に北朝鮮当局に拘束されたと報じられた23歳の米国兵士、トラビス・キングについてさらなる詳細が明らかになった。

AP通信によると、韓国に駐留していたキング2等兵は、暴行容疑で2カ月の服役を終え、最近、同国の米当局に釈放されていたという。彼は、軍の懲戒処分を受けるためテキサス州に戻る途中、ソウル郊外の空港まで護送されていたところ、板門店の共同警備区域(JSA)の見学ツアーに参加し、北朝鮮側に越境した。

米当局によるとキングは北朝鮮に拘束されているとみられ、この5年近くで初めてのことだという。

米国人の観光客は、2017年以降、北朝鮮への訪問が禁止されており、国務省は両国間には「外交関係も領事関係もない」ため、政府は国民に緊急支援を提供できないと警告している。オックスフォード大学のエドワード・ハウエル講師によれば、両国の関係はここ数週間で悪化の一途をたどっているという。

米国の大統領や外交官らは、米国人の釈放に向けてハイレベルの会談を行ったことがあるが、ハウエル講師によると、北朝鮮が米政府高官との対話に興味を持っていることを示す「シグナル」はまったく出ておらず、北朝鮮がキングの身柄の引き渡しを関係改善の機会として利用するとは思えないという。

2020年のパンデミックの発生以来、北朝鮮への入国を許可された唯一の外国人は中国の外交官だとハウエル講師は述べ、キングはおそらく隔離され、公衆衛生上のリスクとみなされていると付け加えた。

キングが国境を越えてから24時間以上が経過しても、北朝鮮の国営メディアはいかなる声明も発表していない。「北朝鮮には米国からの直通のホットラインがあるが、彼らは電話にすら出ていない」とハウエル講師は語った。

ハウエル講師は、キングの越境が「米朝関係がかつてないほど悪化しているときに起きた」と指摘した。北朝鮮は今月初め、米国の偵察機が排他的経済水域上空を飛行していると非難し、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障顧問は先週、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを発射したことに懸念を表明した。

ロイター通信によると、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長は17日、米国からの会談要請を拒否し、弾道ミサイルを搭載できる米海軍の原子力潜水艦が韓国の釜山に入港することが、北朝鮮をさらに疎外することになると警告した。原子力潜水艦は18日に韓国に寄港したが、米国のこの種の潜水艦が韓国に入るのは数十年ぶりのことという。

帰国直後に死亡した大学生

北朝鮮に拘束されたアメリカ人は、過去20年間にさまざまな運命をたどってきた。ビル・クリントン元大統領は2009年に北朝鮮に飛び、2人の米国人ジャーナリストの釈放交渉に成功した。

2016年1月に北朝鮮を旅行中に当局に拘束された米国人大学生、オットー・ワームビアは、翌年6月に脳に深刻な損傷を受けた昏睡状態で帰国し、死亡した。彼は、ホテルにあった政治宣伝ポスターを盗もうとしたとして拘束され、国営テレビに出演してその罪を自白した。その奇妙なビデオは、米国政府が市民を操って外国に対して犯罪を犯させたとも主張していた。ハウエル講師は、北朝鮮がキングに対して同様な措置を取るかどうかは知る由もないと述べた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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