一般にスパイとは、組織的に情報収集とその分析(諜報)を行う機関、およびその構成員を指す。
近年、世界ではどのようなスパイの動きがあるのか。また、ITの進化で情報戦が進む中、私たちはどのようなことに気をつければ良いのか——。
実は“スパイオタク”だという池上彰に、国際ニュースから読み解くスパイの最新事情を聞いた。
「ワグネルの反乱」の裏側
——実は「スパイオタク」だという池上さん。最近気になったスパイの動きはありますか。6月下旬にあったロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱です。ワグネルの代表プリゴジン氏が、国防相との確執から、ロシア軍に対して反旗を翻し、モスクワに向けて進軍しました。その後すぐに進軍を停止し、現在は事実上武装解除しています。
実は、プリゴジン氏が武装反乱を起こす何日も前に、アメリカはその情報を掴んでいました。ワグネルの内部にCIAのスパイを入れるのは非常に難しいので、基本的にはワグネル内部の電話や無線通信を盗聴していたのだろうと思います。
ロシア国内と旧ソ連諸国を管轄するスパイ組織のFSB(ロシア連邦保安庁)も、事前にその情報を察知していました。ワグネルを率いるプリゴジン氏は、もともとは対立していたロシア軍幹部の拘束を計画していましたが、実行の2日前にその情報がFSBに漏洩したことに気づき、予定の前倒しと計画の変更を行って、武装蜂起に至ったと見られています。
——ロシアのウクライナ侵攻に関連しては、どのようなスパイ活動が展開されているのでしょうか。
ロシアの政府にはアメリカのCIAの情報源が存在していると見られます。その情報のほか、偵察衛星や、ロシア軍の通信の傍受から得られた情報がよく活用されています。
例えば、ロシア軍がウクライナに侵攻する前の話。ロシアは2021年9月と11月に、ウクライナ国境付近で大規模な軍事演習を実施しました。当時、ロシアはウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加入に反対していたため、それを牽制する行為だろうと思われていました。
ところが同年12月、アメリカの有力紙である「ワシントン・ポスト」が、アメリカの情報機関がまとめた報告だとして、「ロシア軍が新年早々にもウクライナに侵攻する準備をしている。最大17万5000人を動員した本格的な軍事侵攻の計画だ」と報じました。
さらに翌年2月、アメリカのバイデン大統領は、「ロシアがまもなくウクライナに軍事侵攻しようとしている」と断言しました。