政治

2023.07.21 08:30

スパイオタクの池上彰が解説。世界の「スパイ最前線」と日本の事情

池上彰


——なぜアメリカは、詳細な侵攻計画が早期に把握できたのですか。
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おそらく、偵察衛星のおかげです。アメリカの偵察衛星は、少なくとも15cm程度の物体は認識できると言われる高い解像度で、常に地球上を観察しています。

これによってウクライナ国境付近に展開するロシア軍を継続的に監視し続けていたのでしょう。そして、多数の野戦病院が設置され、輸血用の血液を運搬する車が入っていくのを見て、ロシア軍が本格的に軍事侵攻しようとしていると予測しました。

それに加えて、プーチン大統領の周辺に潜むスパイからも、兵士の動員数や侵攻の開始時期などの情報がもたらされたのではないかと思います。これらの情報によって確信を得たアメリカは、先の発表に至りました。
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結果的に、ロシアはウクライナの軍事侵攻を否定せざるを得なくなり、具体的な侵攻計画を末端の兵士に共有できないまま、開戦することになりました。多くの兵士が、「軍事演習だと思って戦車に乗っていたら、いつの間にかウクライナに入っていた」と語ったのは、そういった背景があったわけです。


中国では「反スパイ法」の改正も

——中国では7月1日に、スパイ行為を取り締まる改正「反スパイ法」が施行されましたね。

改正「反スパイ法」でスパイ行為の定義が拡大されるなど、スパイの取り締まりが強化されています。今年3月には、反スパイ法違反の容疑で、アステラス製薬の日本人社員が中国当局に拘束されたことも記憶に新しいのではないでしょうか。

今、中国に滞在する外国人は誰でも、スパイ容疑で捕まる危険があるわけです。

逆に、最近の米中関係の悪化の影響で、アメリカ国内で中国人がスパイ容疑で次々に逮捕されるという動きもあります。

中国の国民は、国家情報法という法律で、中国の情報機関から情報収集への協力を要請された場合、それに協力しなければならないと定められています。つまり、世界中にいる中国人が全員スパイになる可能性があるのです。

日本のスパイ能力は?

——日本は、どのようなスパイ活動を行っているのでしょうか。

現在は、防衛省や警察庁から出向した人たちが、世界各国の日本大使館で現地の情報を収集して日本に送り、内閣官房の内閣情報調査室でその情報を分析しています。

ただ、日本から各国に積極的にスパイを送り込むことはしていません。それをすべきだという議論はありますが、その主導権を外務省と警察庁のどちらが取るのかが決まらず、実現には至っていないという現状があります。

今や世界では、サイバー空間上での攻撃や情報窃取も当たり前に行われています。日本も東京オリンピックの際に、ドーピング違反で出場できなくなったロシアから猛烈なサイバー攻撃を受けました。しかし、日本はイギリスに知らされるまで、その攻撃に気がつきませんでした。

自衛という観点では、日本もサイバー攻撃を受けたら同じように反撃すればいいのですが、そもそも日本ではコンピュータウイルスをつくること自体が法律に違反します。そのため、自衛隊には特例で認めるべきではないかという議論も行われています。
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文=三ツ井香菜 取材・編集=田中友梨 撮影=杉能信介

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