数十億年前に水の湖があった証拠が多数見つかっている火星を加えると、惑星地質学者が古代の川を調べるべき場所は3つになる。
今月10日、米科学アカデミー紀要(PNAS)に論文を発表した米マサチューセッツ工科大学(MIT)などのチームは、米航空宇宙局(NASA)の支援を受け、火星とタイタンの画像を使って地球以外における古代河川の状態を測定する新たな技法を開発した。
タイタンの液体
研究は、タイタンでの液体メタンの挙動に関する強い興味から始まった。タイタンの化学的性質は「地球が錯乱したようなもの」とも表現されるが、その大気は地球に似て窒素が主体(ただし大気圧は地球の1.5倍)で、雨や湖、海は液体のエタンとメタンから成っている。気体ではなく液体として流れているのは、タイタンの表面温度が氷点下179度前後だからだ。大気が厚いため、タイタン表面を捉えた画像は少ないが、NASAの土星探査機カッシーニが撮影した数少ない画像からは、液体域のほかに、渓谷、山の尾根、メサ(卓状台地)、砂丘などもあることがわかった。
ミシシッピのような川
研究チームは、タイタンの河川にはデルタ(三角州)がほとんどないことから、形成に必要な流れや堆積物がないのではないかと推測。地球の川の流れを表す数式を、データの限られている惑星や衛星の川に適用できるよう改変した。具体的には、川の幅と傾斜、およびそこに働く重力場(タイタンの重力は地球の14%だ)のみを用いた。チームは、川の傾斜が測定可能な2つの場所に注目。1つはデルタを形成している川(オンタリオ湖とほぼ同サイズの湖に流れ込んでいる)、もう1つはデルタを作らない川だ。計算の結果、どちらの川も、幅が広く流れの急な地球の川、たとえばミシシッピ川に似ていることがわかった。
論文の主著者でMIT地球・大気・惑星科学(EAPS)学科のサミュエル・バーチ(Samuel Birch)は「タイタンは最も地球に似た場所です」と語る。「私たちは、その一端を垣間見ただけで、タイタンにはほかにもたくさんのものがあることが分かっています。この遠隔技法を使うことで、少しずつ目標に近づいています」