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2023.07.20 17:00

10のキーワードから読み解く「新しい希望」とその未来

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ニュー・ネポティズム

2021年12月第1週、『The New York Times』は巻頭の8ページを割いてひとりのデザイナーの追悼特集を組んだ。その人物の名はヴァージル・アブロー。アフリカ系初となるルイ・ヴィトン(LV)メンズウェアのアーティスティック・ディレクターを務めた彼のあまりにも早すぎる死に、ファッション関係者のみならず、BTSからパティ・スミス、フランク・オーシャンまで幅広いクリエイターが自身のInstagramに、彼のビジョンと業績をたたえる追悼文を投稿した。

では、ヴァージルはファッション界において何を成し遂げたのか。何が画期的だったのか。彼はしばしば、ヒップホップ的手法を用いてストリートウェアをハイファッションに定着させた人物としてたたえられるが、その功績はデザインにとどまるものではない。特筆すべきは、ヴァージルが自らの特権的な立場を利用して、黒人コミュニティの起用・育成に尽力した点にある。

彼はLVのディレクター就任後、すぐにチームの再編成に着手。才能あるアフリカ系を積極的に呼び込み、“白人だらけ”の象牙の塔に新風を吹き込んだ。ヴァージルはそれを「ニュー・ネポティズム(新しい縁故主義)」と呼び、「先人たちが切り開いた道に若手を招き入れ、才能ある黒人の活躍を促すこと」と定義した。ここでは「黒人」がファッション業界におけるマイノリティであることが重要であり、地域や業界が変われば、そこに置き換えられるべき属性も違ってくるだろう。

ヴァージルはあるインタビューのなかで、自身が成功したと言えるのは、才能あふれる黒人たちがクリエイティブ業界で当たり前のように活躍する未来が訪れたときだ、と語っている。特権をもつ者の責任。コミュニティへの意識。エコシステムに開かれた視野。ヴァージルはそれらすべてを携えてクリエイションをしていた。彼が創造していたのは未来そのものだったのだ。


平岩壮悟◎1990年生まれ。フリーランスの編集者/ライター。ファッション誌から文芸誌まで幅広く活躍する。訳書にヴァージル・アブロー『ダイアローグ』(アダチプレス)。現在、雑誌『EASTEAST_』の創刊準備中。
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イラストレーション=ローリー・ロリット

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