自販機と冷凍技術、発酵技術で食の裾野拡大
山田は、食農分野のバリューチェーンは資材調達、流通、生産、取引に分けられるという。サステナブル農薬・肥料は調達にかかわるジャンルだ。では、調達以外の分野の注目キーワードは何か。日本でいち早くフードテック領域に目をつけ、「Smart Kitchen Summit Japan」や「FoodTech Studio-Bites!」などを通じて食のオープンイノベーションを推進してきた米サンフランシスコ在住の外村仁が注目しているのは、「調理型の自動販売機」と「発酵」だ。
調理機能を備えた自販機銘柄として外村が注目するのが、米国発スタートアップ「Yo-Kai Express」(ヨーカイエクスプレス)だ。22年3月に日本初上陸を果たし、同年9月には一風堂を展開する力の源ホールディングスや、テーブルマークを傘下にもつ日本たばこ産業と業務提携を結んだ。
「24時間、いつでも非接触で温かい料理を販売できる調理型の自販機を使えば、人件費や出店料高騰などの影響を受けることなく、さまざまな国や場所で食事を提供することができる。自動調理自販機の最新調理技術と、食品の特殊冷凍技術を組み合わせるこで、これまで海外進出を尻込みしていた日本の飲食店が新たなマーケットを開拓する機会などにもつながるだろう」
発酵に関しては、「日本が伝統的に磨いてきた技術が世界で求められている」と話す。その背景にあるのは、フードロス削減とアップサイクルの必要性の高まりだ。
「これまで捨てられてきた資源に発酵の技術をかけ合わせ、新たなうまみや有効成分をつくり出すことで、いまあるものを有効活用できる可能性が高まる。沖縄に拠点を構えるスタートアップ、AlgaleX(P34)は好事例のひとつだ」
一方で、「日本は米国に比べてフードテック企業への投資が少ない」と指摘する。
「米国では、大企業によるスタートアップへの投資やインキュベーションが活況で、自社のR&Dの代わりにしているのではないかと思うほどだ。日本の食品系大手は、この2、3年でようやくスタートアップと協業する動きを見せ始めた。オープンイノベーションの加速は、日本発のフードテック企業を増やすことにつながるだろう」
山田唯人◎マッキンゼーのパートナー。サスティナビリティ研究グループのアジア・リーダー。資源分野企業の長期的成果達成を支援。WEFの2022年ヤング・グローバル・リーダーに選出。共著に『マッキンゼーが読み解く食と農の未来』。
外村 仁◎ベイン・アンド・カンパニー、アップルを経て、ベンチャー企業や投資会社を共同創業。エバーノートジャパン会長も務めた。「Smart Kitchen Summit Japan」「FoodTech Studio-Bites!」などを通じて食のイノベーションを推進。