iPadの音楽制作アプリ「Logic Pro」を使う理由
日々の創作環境に使うデジタルツールとして、iPadの可能性を見つめ直す機会もあった。『配置訓練』は、細井氏が1人でつくったサラウンド作品の中では最も尺が長い20分の作品になった。展示スペースの広い空間を埋めつくすため、細井氏は自身の「声」を中心とするサウンドの素材を集める段階でアップルの音楽制作アプリケーション「Logic Pro」のiPad版を活用した。今ではiPadとLogic Proの組み合わせが「身体の一部」のようになった。
Logic Proはタッチ操作に対応するiPadに最適化されている。「身体的なユーザーインターフェース」が、細井氏の音楽創作のアプローチにフィットした。例えば「ステップシーケンサー」の機能でパラメーターを調整してグルーヴをつくる機能を細井氏はよく活用している。Macだとマウスで画面上のアイコンを選択したり、数ステップかかる操作が、iPadなら画面を指で斜めにスライドすると一瞬でパラメータを変更して、サウンドをプレビューしながら意図する方向に追い込めるところが良いのだという。
細井氏が作品の素材を制作する際に活用しているというiPad版Logic Proの「ステップシーケンサー」タップ操作により自由自在にグルーヴが調整できる
「私は音楽理論に基づいた作曲ができるわけではないので、頭の中に描いていることを可視化するためにデスクトップの音楽制作アプリケーションを使っていません。データに落とし込むまでに数ステップの操作があると、実行する途中でアイデアがこぼれ落ちることがありました。iPadのLogic Proは身体的なインターフェースを活用して、アイデアをすばやく形に残したり、予測を超えるパターンが描けることもあります。クリエーターのかゆいところに手が届くように、Logic Proがたくさんの機能を搭載していることにも納得ができたので、iPad版ではそれぞれを使いこなせるようにしています」
これから長野県立美術館を訪れる人々が、日ごろデータとの向き合い方を考えるきっかけとして『配置訓練』という作品が役割を果たすことを細井氏は期待している。
「例えば祖父の落書きのようなメモを取っておくことにも、自分の中に相応の意味や理由があるものです。何気なく残したデータが、いずれ未来に自分が何か大切なことを思い出すきっかけになる場合もあります。作品をご覧になった方々が、データがもたらす利便性だけにとらわれず、自身の個人的な記録と向き合ってみることについても関心を向けてくれたらうれしいですね」
2021年4月「長野県立美術館」としてリニューアルオープン。屋上広場「風テラス」からは国宝善光寺本堂が望める
【開催情報】
第II期みんなのアートプロジェクト成果展 配置訓練 細井美裕+比嘉了・長野県立美術館 交流スペース
・開催期間:2023年7月15日(土)~2023年9月10日(日)/休館 水曜日
・キュレトリアルアドヴァイザー:阿部一直、サウンドエンジニア:奥田泰次(studio MSR)
・URL:https://nagano.art.museum/exhibition/constellation-manual-miyu-hosoi-satoru-higa
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
過去記事はこちら>>