レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は本誌「Forbes JAPAN 2021年1月号」の連載で、体質もあり、33歳で飲酒をやめて“下戸”になったことを明かした。そして、お酒を飲めない、飲まない、飲みたくない「ゲコノミスト」向けのノンアルコール飲料市場の拡充を訴えた。今まさに、世界でその潮流が生まれている。ここでは、米ノンアル飲料市場を牽引するクラフトビールメーカーを紹介しよう。
ノンアルコールビールの一般的イメージは、カフェイン抜きのコーヒーと同様に味気ないものかもしれない。ところが、アルコール抜きのクラフトビールを作る飲料メーカー「アスレチック・ブリューイング」共同創業者兼CEOのビル・シュフェルト(39)は、2017年に創業した同社を評価額5億ドルに押し上げた。同社は、キレのあるエールや風味豊かなIPAを生み出すための努力を重ねてきた。
「人類は5000年以上前からビールを飲んできたのに、健康志向の人々のためのビールがこれまでなかったのは驚くべきことです」と、金融業界の出身で10年前に飲酒をやめたシュフェルトは話す。独自の醸造所を立ち上げたアスレチックは、これまで1億7350万ドルを調達しており、昨秋には飲料大手のキューリグ・ドクター・ペッパーから約5億ドルの評価額で5000万ドルの出資を受けた。
米国の伝統的なビールの売り上げはここ数年ほぼ横ばいで推移しているが、米調査会社ニールセンによると、ノンアルコールビールの売上高は21年夏から22年にかけて20%増加し、3億3000万ドルに達している。なかでもアスレチックの勢いは群を抜き、21年に3700万ドルだった売上高は22年には6000万ドルを突破した。米国人の健康意識やフィットネス志向が高まる一方で、1990年代~2010年代前半生まれ、いわゆる「Z世代」は、上の世代よりも飲酒量が少ない。欧米では新年に飲酒を控える傾向があり、飲料調査会社CGAによると、22年の年明けには米国の飲酒者の3分の1以上が断酒に挑戦している。
そんななか、シュフェルトは平日のランチや、運動後の一杯などに、人々がビールを飲む機会をもっと増やしたいと考えている。それも体重を増やさずに、である。アスレチック製ビールのカロリーは、一般的なクラフトビールの3分の1未満だという。
米コネチカット州ダリエンで育ったシュフェルトは、トレーダーとして働いた後、証券アナリストの資格を取得し、著名投資家スティーブ・コーエンのヘッジファンド「Point72アセット・マネジメント」で働いた。ストレスが多い職場で、週に4日は取引先との会食に出かけていた。体を動かすことが好きで、仕事でよりよいパフォーマンスを発揮したいと思った彼は酒をやめたものの、その途端に自分が“社会のアウトサイダー”のように感じたという。
「人との語らいのなかで、手の中にある飲み物は重要な役割を果たしています。でも、自分はそれをなくしたんだと感じました」(シュフェルト)