同じコネチカット州出身のウォーカーはその当時、ニューメキシコ州の醸造所に勤めていたが、シュフェルトの情熱に魅了され、幼い子供たちを連れて故郷に戻ることにした。シュフェルトのウォール街とのつながりを生かして300万ドルを調達した二人は、コネチカット州ストラトフォードに小さな醸造所を建設し、“実験”を始めた。
ノンアルコールビールの多くは、完成したビールを煮沸してアルコールを除去しているが、このやり方では風味も失われてしまう。アスレチックは、それとは異なる発想で、最初から風味が豊かでアルコールの少ないビールを醸造することにした。そして半年に及ぶ試行錯誤を経て、後の看板ブランドのゴールデンエールを完成させ、18年に地元の小売店に加えて、生鮮食品チェーン「ホールフーズ」の数店舗で販売を開始した。
シュフェルトは毎週末、朝3時に起きて、スポーツ大会の会場でサンプルを配った。努力の甲斐あって、全米にチェーン店を展開する酒店「トータル・ワイン」から初の注文が舞い込んだ。アスレチックは現在、新たな資金を2つの醸造所につぎ込み、製造容量を年間65万バレル(約2億1500万本の缶ビールに相当)にまで引き上げようとしている。
現状の売り上げの大半は、ホールフーズやトータル・ワインなどの大手チェーンでの販売だが、アスレチックは、約3万軒のレストランやバーへの直販を行っており、eコマースの売り上げも伸びている。彼らのビールはアルコール度数が0.5%未満のため、酒税法に縛られずに、消費者にオンラインで直に売れるのだ。
「数十万人に及ぶファンのデータベースを構築した」と語るシュフェルトは、新たなビールや特別セール、限定フレーバーを顧客にメールで告知している。
「成長の余地はまだある」と彼は言う。アスレチックの商品はいまのところ、ビールを販売するライセンスをもつ米国の店の15%にしか置かれていない。シュフェルトは、コンビニやコーヒーショップ、さらには自動販売機にも目を向けている。
「これまでビールが置かれていなかった場所にも、巨大なチャンスが広がっています」
アスレチック・ブリューイング◎米コネチカット州にある、2017年創業の米飲料メーカー。ノンアルコールのクラフトビールを開発・製造・販売している。創業者は、元金融マンのビル・シュフェルトと、ビール醸造家のジョン・ウォーカー。大手飲料メーカーと提携する一方で、eコマースを使った直販もしており、22年の売上高は6000万ドル超。