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2023.07.16 10:00

減速する中国テック業界の勝ち組、「ネットイース」好調の理由

安井克至

「ネットイース(網易)」の創業者のウィリアム・ディン(Photo by Zhang Peijian/VCG via Getty Images)

テンセントに次いで中国で2位のゲーム会社「ネットイース(網易)」の創業者のウィリアム・ディン(51)は、大ヒットゲームを連発したことで昨年10月以降に122億ドル(約1兆7000億円)という途方もない額の個人資産を増やしている。

オンラインゲーム市場でテンセント共同創業者のポニー・マー(馬化騰)と長らく競い合ってきたディンの保有資産は310億ドルで、ミネラルウォーターの農夫山泉(Nongfu Spring)の創業者のチョン・サンサン(鍾睒睒)やバイトダンスの創業者のチャン・イーミン(張一鳴)、テンセントの創業者のポニー・マーに次いで、中国で4位の富豪となっている。

米国のナスダックと香港市場に上場するネットイースの株価は昨年10月以降に80%も急騰した。さらに、今年の年初からの株価の上昇幅は、テンセントが一桁台に留まるのに対し、ネットイースは30%の上昇を記録しており、中国経済が勢いを失う中でディンは数少ない勝ち組となっている。

アナリストは、ネットイースがゲームに集中することでマクロ経済の逆風を回避できたと指摘する。このセクターは、景気の浮き沈みの影響をあまり受けず、昨年から中国政府がゲーム業界の規制を緩めたことの追い風も受けている。一方、テンセントは広告や決済などの景気に左右されやすい事業が、収益の半分近くを得ている。

モーニングスター・アジアのアナリストは、ネットイースがオンラインバトルゲームの『夢幻西遊』のような古くからのタイトルに加え、新作でも予想以上の成績を収めていると語る。同社は、直近でカーレースゲームの『レーシング・マスター』やカジュアルゲームの『エギーパーティー』、『ジャスティス・モバイル』などを中国のランキングの上位に送り込んでいる。

アプリの分析企業data.ai(旧アップアニー)によると、6月末にリリースされた『ジャスティス・モバイル』は中国のiOSストアのゲームカテゴリでトップ3に入っている。このゲームは、中国で初めて生成型の人工知能(AI)を採用したスマートフォンゲームの1つに挙げられている。

普段はあまり人前に出ないディンは、ハンズオンの経営スタイルで知られ、プログラマーに直接指示を与えると報じられているが、今後は生成AIを開発の要に据えるのかもしれない。先日の中国浙江省主催のカンファレンスのキーノートで、ディンはネットイースがAIに年間14億ドル以上を投資し、ゲームや教育関連のコンテンツを強化すると述べていた。
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編集=上田裕資

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