国内

2023.07.27 12:00

「当事者」から「共事者」へ。 思いの連続性が社会を変える

共事者たちがつくる未来

──共事者が増えることで、社会はよりよくなると思うか。

世の中を変えるにはふたつの方向性がある。専門家(当事者)として実績を1から100へと積み重ねていく方法と、0から1にするスイッチを入れる方法だ。共事者という言葉は後者で、ゴールを示すわけでもなければ、社会変革を起こすわけでもないが、スイッチを入れるきっかけになればいいと考えている。

東日本大震災という大きな出来事があったにもかかわらず、12年たっても結局、社会はそれほど変わっていない。世の中は変わりにくいものなのだとすれば、短期的に100の出力をするよりも、1の力を100へ、1000へと緩やかにつなげていったほうが世の中を変える可能性があると思っている。共事者という言葉は、1の力を出す人をひとりでも増やすためにある。

希望とは、共事者であることに気づいた人たちが、試行錯誤するなかにあるものだと思う。「自分は非当事者だ」と、何もしなければ社会は変わらない。課題に対して共事の心をもち、一人ひとりが日常生活で感じているちょっとした不便やイライラを解決しようとしたり、戦争や環境問題など、大きな社会課題のことを気にかけたりするなかに希望は生まれるのだ。

僕自身、子育てがうまくいかずイライラがたまっていたときに、子育て中の父親を集めてパネルディスカッション形式で愚痴を面白がるイベントを開催したことがある。愚痴が数人分集まれば、そこに公共性が生まれてマス・メディアからの取材が入り、行政からも声がかかった。日常のちょっとした生きづらさをひとりで消化せずにオープンにする場さえあれば、社会は変わるはずだ。

──ー歩を踏み出すために、私たちにできることは何か。

「一歩」を大げさにとらえる必要はない。まずは“私という当事者”の生活や気持ちを大切にすることだ。自分自身の暮らしが少し快適になったり、楽しくなったりする方法を選ぶだけでいい。例えば食料自給率について詳しく知らなくても、スーパーで買う食材の産地を気にするだけで十分に「共事者」だ。自分の選択が社会変化につながっていることに気づいてほしい。さっきあなたが買った野菜、今日電車に乗ったこと、居酒屋で隣の人と仲よくなったこと。そのどれもが、よりよい社会に近づく一歩なのだ。


小松理虔◎地域活動家。福島県いわき市小名浜生まれ。小名浜でオルタナティブスペース「UDOK.」を主宰。地域のさまざまな分野で企画や情報発信に携わる。著書に『新復興論』(ゲンロン)、『地方を生きる』(ちくまプリマー新書)などがある。

文=中崎史菜

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事