サイエンス

2023.07.25 14:00

「地中」で花を咲かせて実を結ぶ新種のヤシ発見

ヤシ科ピナンガ属には140の種があり、その殆どが小型で、森林下層で見られる。100種以上が東南アジアに生育し、ボルネオは生物多様性の中心である(Randi Agusti / CC BY 4.0)

ヤシ科ピナンガ属には140の種があり、その殆どが小型で、森林下層で見られる。100種以上が東南アジアに生育し、ボルネオは生物多様性の中心である(Randi Agusti / CC BY 4.0)

現実の世界は人間が想像しうるよりずっと奇妙だ。

宇宙は私たちが考えている以上に奇妙であるだけではなく、私たちが考えうる以上に奇妙である。- ヴェルナー・ハイゼンベルク「Across the Frontiers」(1974)

生物を学ぶ学生として、私は数多くの奇妙な物事に出会ってきたが、想像すらしたことのない奇妙なものの1つが、地中でのみ花を咲かせ、実を結ぶ植物だ。この植物は科学にとっての新参者であり、ヤシ科(Arecaceae)の中で、地中に花を咲かせ、結実させる唯一の種だ。この植物はその生き方、たとえばどうやって受粉するのか、どの生物が授粉するのか、送粉者(昆虫や鳥類など)はどうやって花を見つけるのか、など数々の疑問を私に抱かせた。

その注目すべき珍しいヤシは、つい1月ほど前にPinanga subterraneaという学名で正式に登録された。名前は「地下」を意味するラテン語に由来するもので、英国キュー王立植物園のチームが命名した。その果実はイノシシによって散布されていると考えられているが、授粉に関する私の疑問に対する答えはいまだにない。

Pinanga subterranea。(a)成長した実をつける個体。果実序の先端を露出するために根元周辺の枯葉と土を一部除去してある。(b)植物の根元。土の表層が取り除られ、赤い果実(左)と未熟の緑褐色の果実(右)が見えている。(c)熟した果実。スケールバーは1cm。(d)一部掘り出された未熟な果実をつけた果実序。(e)ヒゲイノシシ(Sus barbatus)。Pinanga subterraneaの種子散布者(DOI:10.1002/PPP3.10393)Pinanga subterranea。(a)成長した実をつける個体。果実序の先端を露出するために根元周辺の枯葉と土を一部除去してある。(b)植物の根元。土の表層が取り除られ、赤い果実(左)と未熟の緑褐色の果実(右)が見えている。(c)熟した果実。スケールバーは1cm。(d)一部掘り出された未熟な果実をつけた果実序。(e)ヒゲイノシシ(Sus barbatus)。Pinanga subterraneaの種子散布者(DOI:10.1002/PPP3.10393)
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翻訳=高橋信夫

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