経済・社会

2023.07.15 07:30

がっぷり四つのウクライナ戦線、兵士に忍び寄る疫病の影

山下氏によれば、自衛隊も2011年3月の東日本大震災での救助活動で大変な苦労を味わった。震災直後は人命救助が最優先になるため、派遣された自衛隊員は満足な休息を取れなかった。給水車の水やアルコールで体を簡単に拭き、車両やテントで寝るという生活が長引くにつれ、風邪を引いたり、不眠を訴えたりする隊員がどんどん増えていったという。

山下氏は「犠牲者の遺体の清拭など、心理的に強い負担がかかる隊員には毎晩、カウンセラーが隊員に対し、その日に体験した話をさせてストレスを和らげる『解除ミーティング』をしていました。それでも、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる隊員が相次ぎました」と語る。「激しい戦闘が昼夜行われている前線では、両軍にPTSDを負った兵士が想像を超える数で発生しているでしょう」

米NBCテレビ(電子版)は6日、ロシアのラブロフ外相と元米政府高官が4月にニューヨークで会い、ウクライナ侵攻を巡って協議したと伝えたうえで、停戦の下準備だった可能性を指摘した。戦線の膠着状態が続けば、徐々に停戦を求める声も強くなっていくかもしれない。

あるいは、山下氏は伝染病がこうした膠着状態を破る要因になるかもしれないと指摘する。山下氏は「第1次世界大戦では、スペイン風邪による死者数が戦死者数に匹敵し、戦争が終結する大きな要因を作りました。戦場で静かに忍び寄る第三の敵、死の生物兵器とも言えます。両軍ともに、自らの状況を不利にするため、感染状況などを明らかにすることはないでしょうが、それだけ状況を注視する必要があると思います」と語った。

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文=牧野愛博

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