ライフスタイル

2023.07.28 19:00

長刀の万年筆がくれた、 大切なむだと心の余裕

坂元 耕二
970

SAILOR JAPAN 1911 SPECIAL NIB 「長刀ふで DE まんねん万年筆」

贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは少し異なる、特別な関係だ。


THE GIFT #1

井上慎一

全日本空輸代表取締役社長
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SAILOR JAPAN 1911 SPECIAL NIB
「長刀ふで DE まんねん万年筆」
ペン先を反り返らせ筆感覚で使用できる人気の逸品。 
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私はなるべく手紙を万年筆で書く。書き損じて一から書き直すこともある。インクが手に付く煩わしさもあり手間がかかるが、あえて万年筆を手に取る。その時は、相手のことだけを思い、「書く」という行為に没頭する。

これは、趣味で嗜む写経に似ている。効率を追い求めるビジネスの世界に身を置くと、一見「むだ」と思われる行為が、実は心の余白を持つうえで大切になる───。と、そんなたわいもないお話をして意気投合したお相手が書斎館会長の赤堀正俊さんだった。

出会ったのは昨年、社長就任後の会合の席でのことだ。それからすぐに、小包が届いた。「長刀ふでDEまんねん」と自筆で書かれたメモとともにセーラーの万年筆「SAILOR JAPAN 1911 SPECIAL NIB」が入っていた。送り主は、赤堀さんだ。長刀とはペン先の研ぎ方のことで、少し長く、筆のように扱える。

赤堀さんの遊び心と心遣いに深く感動したのを覚えている。彼は私の日常に、インクが乾く数十秒を与えてくれた。この長刀を手にするたびに「心の余裕を失っていないだろうか」と自問する。私の心の余白づくりにかかせないもうひとりのよき友、それが長刀なのだ。


いのうえ・しんいち◎1958年生まれ。早稲田大学法学部卒業。三菱重工業を経て、90年に全日本空輸に入社。主に海外、営業部門に携わり2011年に Peach AviationのCEOとして実績を残し、20年に全日本空輸専務取締役執行役員、22年より現職。

文=中沢弘子 イラスト=東海林巨樹

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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