仕事に疲れてリフレッシュ?様々な経験を積みたいから?恋人との仲を深めたいから?
人それぞれ、その時々の目的があって、けっして入国審査で問われるような「ビジネスか、レジャーか」などという、画一的で平板な目的ではないはずだ。
そんな点に目を付けたのが、英国航空が行った広告企画「A British Original」。動画や印刷物、デジタルなど様々なメディアで展開したが、コアとなったのはデジタルサイネージを含むアウトドア広告だ。
British Airways - A British Original (case study)Outdoor Grand Prix at the Cannes Lions 2023
広告には、入国審査書類によくある“旅の目的”のチェック欄がデザインされているのだが、「ビジネス」「レジャー」以外の“第3の選択肢”も加えられている。この“第3の選択肢”は、切実で曖昧でオリジナルな目的。1カ月にわたり、512種類も展開された。
British Airways - A British Original (case study)Outdoor Grand Prix at the Cannes Lions 2023より
この事例は、今年6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2023において、アウトドア部門グランプリなどを受賞した。カンヌライオンズとは、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つアワ−ドである。
同じ広告を2度と見ない仕組み
では、512種類も考案された“第3の選択肢”はどんなものだったのか。一例をあげると以下のようなものだ。
「人生は短いから」
「(人生)新展開のためのタトゥーを彫りに」
「何故ならば約束をしたから」
「発音さえできないような珍しい物を食べるため」
「月曜のランチでワインを飲むため」
「今年はとにかくいろいろなことがあって」
「(単なる)いたずら」
「まだ彼女を愛しているから」
本当に多様なレベル感の、個性あふれる“旅の目的”が書かれている。この選択肢は、実際の旅行者へのアンケートをもとに開発されたのだという。
さらに、512種類もあるこのアウトドア広告は、同じ人が同じ内容の広告を2度と見ないように工夫された。掲載場所や時間帯、天候までをも考慮して掲出されたのだ。その場所でその時にしから見られないメディアの特性を、とことん活かしたクリエイティブだといえる。
テレビCMであれば、複数のテレビ局で何度も見るし、雑誌広告であれば何十万冊に同じ内容が掲載される。ネット上のバナー広告やウェブ動画広告も、同じものが何万回・何十万回と再生される。
ところが、アウトドア広告はそれぞれの掲出場所特有のオリジナリティがある。そうした特性は、今回の英国航空のコンセプトにぴたりと合致している。