一般的なペースメーカーは、リードと呼ばれる電線を通じて心臓に電気刺激を与えるが、リードレスペースメーカーはリードを持たないカプセル型の構造で、体内に埋め込む際に外科手術を必要としない。
「臨床的観点から見ると、リードレスペースメーカーは従来のペースメーカーのように合併症を発症するリスクが解消されるため、患者にとって利点が大きい。恩恵を受けられる患者の数は、何倍も増えるだろう」と心臓専門医でアボットの心臓リズム管理担当の最高医療責任者であるレナード・ガンツ(Leonard Ganz)は述べた。
毎年、世界で100万人以上の患者が新たにペースメーカーを装着しているが、その大半は従来の植え込み型ペースメーカーであり、基本的な構造は1950年代に発明されて以来ほとんど変わっていない。ペースメーカーは、人生を変えるほどの影響を多くの人に与えてきた一方で、欠点もあるとガンツは指摘する。特に懸念されるのが感染症のリスクで、埋め込み手術の際だけでなく、リードの絶縁不良によっても感染症が起こる可能性があるという。
対照的に、リードレスペースメーカーは従来製品に比べてはるかに小型で、植え込むための外科手術が必要なく、心臓にリードを接続することもない。その代わり、血管からカテーテルを用いて心臓内に送り込んで直接心臓に留置し、必要に応じて取り除くことができる。こうした理由から、リードレスペースメーカーは合併症のリスクを大幅に軽減する。
世界初のリードレスペースメーカーはメドトロニック(Medtronic)製で、2016年にFDAの認可を受けた。アボットが初めて開発したリードレスペースメーカー「Aveir VR」は、2022年3月にFDAの承認を取得している。いずれの製品も心室・心房のどちらか1つをペーシングするシングルチャンバー型だが、ペースメーカーを必要とする患者の約8割は、心臓のリズムを保つために心室・心房の両方をペーシングする必要がある。