「2023 年の世界の高級品市場は 3600 億~3800 億ユーロの成⾧見込み」「2023 年の世界高級品市場は 5~12%成⾧すると予測」「個人向け高級品市場規模は 2030 年までに 5300 億~5700 億ユーロに達し、2020 年比で 2 倍以上に拡大する見込み」とある。
数字としてみれば成長産業であることが一目瞭然だ。ただし、富による分断化が加速している証である、という別の解釈も無視できない。
同種のデータは複数の企業がまとめており、どの分野をラグジュアリー市場に含めるか、どの企業をラグジュアリー市場のメンバーとして含めるか、はそれぞれに異なる。そのなかでもベイン&カンパニーのミラノオフィスを拠点とするパートナー、クラウディア・ダルピッツオ氏が率いるチームが定期的にまとめるレポートやインサイトは評価が高い。
あるエキスパートは、「21世紀のラグジュアリー市場はベイン&カンパニーがつくった」とさえ語る。その理由の一つとしては、ベイン&カンパニーとイタリアのハイブランド企業の集まりであるアルタガンマ財団の二人三脚が功を奏している。両者が密接な協力関係によって、通常のリサーチやクライアントとの対話以上のインサイトを獲得できていると想像される。
さて、前述に引き続き、同社の報告のポイントを拾ってみよう。「景気の先行き不透明感から米国市場の成⾧は鈍化。一方で、欧州市場は観光客の回帰により復調しているものの、2023 年後半には状況が変わる可能性も」と不安要素も顔を出してくる。
現在の地政学的動向やフランス国内の市民暴動にみるような世界各地での社会的紛争を直視すればするほど、暗雲がいつどこで巨大化するかの細かい注意がより大切になってくる。
昨年11月15日、ダルピッツオ氏がアルタガンマの年次報告会で「今回も多くの企業の経営層の人たちにインタビューしたが、『今、我々はタイタニック号に乗っているのではないか?』と共通するコメントをもらった」と語った。
地政学的な不安や個人消費財ラグジュアリー市場の3割以上を占める中国の国内政治動向により、「航海中のルートには氷山があるにも関わらず、それを知らないがごとくタイタニック号の船内で豪華なパーティを繰り広げているのではないか?」という懸念がハイエンド企業のCEOの頭をかすめるのだ。
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