働き方

2023.07.13 20:00

転機を起こすには「強制終了」という劇薬、あえての「ジョブレス」も効く

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じぶん時間を生きる TRANSITION』(佐宗邦威著、あさま社刊)が話題だ。

著者は気鋭の戦略デザインコンサルタント。だが、「時間は効率的に使うべき」という思考モデルには実は限界があるのではないか、と思い始めたことが本書執筆のきっかけになったという。著者は言う。

「実際に僕の人生に起こっていったことは、時間を効率的に使おうとすればするほど、結果的に仕事が増えていったことだった。生産性を上げて、時間を貯めようとしているのに、それに注力するほど『時間がなくなっていく』という矛盾。僕が生きているメカニズムのどこかに時間泥棒がいるんじゃないか」──。

そこで著者は、生活拠点を移すという一大決断をする。そして起きたことは、自身の「時間感覚」の変化と人生そのもののトランジションだった。

本書から以下、一部抜粋して紹介する。


すべては「手放す」から始まる


トランジション理論によると、転機の始まりは「終わらせる時期」だ。終わらせる時期には、今まで当たり前だったものを手放していくことが大事になる。いったん終わらせることで、新たに別のものを受け入れる余白をつくる。

人は、自分で思う以上に、惰性で続けていることが多い。やめるという行為は、誰かに迷惑がかかる可能性もあるので、決断には葛藤を伴う。それでもなお、勇気を持ってやめることが「トランジション」を始める上で重要だ。

たとえば、キャリアでいうと、「職場に向かう際にワクワクしなくなった」、「仕事をしていると、毎日が灰色に感じられる」という状態に陥ったことはないだろうか。恋愛やパートナーシップでも「お互い会話もないのに、ただ別れを切り出すことが怖くて、同居を続けている」、「互いに傷つけ合ってしまうけれど、子どものためを思うと今は我慢するしかない」などの状況もトランジションの始まりを迎える予兆といえるかもしれない。

その場合、現在の惰性を断ち切り、思い切って「終わらせる」ことが、トランジションにつながりやすい。劇薬かもしれないが、本質的な変化が起こりやすいからだ。

かつて、ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)で取締役CFOを務められていた篠田真紀子さんは、次の職業を決めずに同社を辞め、その期間をあえて「ジョブレス」と呼んでいた。「無職」という言葉だけ聞くと響きは悪いが、仕事のない期間は彼女にとって、自分のやりたいことを見つけるための大事な探索の時期だったのだ。大学の教員にはサバティカルといって、10年に一度1年間の休暇を取る制度があるが、ナレッジワーカーにとってはサバティカルのようなゼロリセットの期間は、適切なトランジションを迎える上でとても重要なことだと思う。

僕自身、20代にP&Gでブランドマネージャーに昇進した後、燃え尽き症候群になり、仕事を辞めて1年ほど無職になった経験がある。メンタルの不調で仕事が続かなくなり、いわば強制終了に追い込まれてしまった。

その時期は、あらゆるものが灰色に見えていた。

仕事を辞めて何もしないのは、精神的にとてもきつい。誰かに会うときも、後ろめたい気持ちが先に立ち、「顔向けできない」という感覚に襲われた。自分が何者でもなくなってしまった恐怖と、先の見通せないキャリアにただ絶望していた。

xijian / Getty Images

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しかし実は、そういう何もない時期にこそ「余白」が生まれ、新しいものが入ってくることが多い。

僕自身の場合、無職の期間は、とにかくワクワクする何かを探していた。演劇のような自分を表現する場や、ポートレートの絵を描くワークショップに参加したり、オーラソーマというカラーセラピーやアロマセラピーに通ったりもした。あえて専門以外のジャンルに手を広げていき、感性を刺激するような活動を意識的に拾いにいった。

その期間に出会ったものがきっかけとなり、デザインスクールに留学してデザイン思考を学ぶことになった。10年後の今、当時を振り返ると、それは現在の仕事につながっている。あらゆるものが灰色に見えていた当時、唯一、僕の人生に彩りを添えてくれたのが、絵画や演劇といったアートの存在だった。アートにしか、ワクワクを感じられなかった。
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文=佐宗邦威

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