依存症とは「特定のモノがなくてはならなくなる心理状態」を指す。アルコールやドラッグの印象が強いが、仕事、スマホ中毒、承認依存など対象は幅広い。依存症の特徴とは、自分が不快になる状態を回避するために、短期的に自分を満たすものに依存するということだ。
満員電車の中でスマホを見るのも依存状態の典型だ。満員電車では狭い空間にたくさんの人が押し込められ、見ず知らずの人と肌を接することになる。これは人間にとって不快な状態だといえる。一方、スマホ画面に映し出されるのは、自分の慣れ親しんだ情報ばかりなので、それらを見ていると、不快な状態が緩和される。その結果、すし詰め状態の満員電車の中であっても、乗客は一心不乱にスマホの画面を見つめ、その場を耐え忍ぶことができるのだ。
ワーカホリックと呼ばれる仕事への依存もその一例だろう。ワーカホリックとは「自分は役に立つ存在でありたい。そうでなければならない」という不安からくるものなのだ。
自分が仕事で価値を出せないかもしれないという深層意識の不安を回避するために、必死で仕事に打ち込む。仕事をしている間は、不安を感じなくて済むので、結果的に昼夜を問わず仕事に依存する状態に陥ってしまう。ワーカホリックの場合、仕事自体は体に害のあるものではないので、(過労で体調を崩さない限りは)人生に悪影響を及ぼすわけではない。だが、もしかしたらワーカホリックの状態になっていることで、その人が心の底から求めている「内なる声」に気づくことを阻害してしまっているかもしれない。
依存症のもうひとつの特徴は、「私は状況をコントロールできている」と思い込んでしまっていることだ。ドラッグの依存症の患者は、医学的に見ると完全に「依存症」なはずなのに、「そんなことはない。コントロールできている」と言い張るという。同様に、多くのビジネスパーソンは、自分のワークスタイルを自分で掌握できていると思い込んでいたのではないか。
たとえば、弁護士、戦略コンサル、外資系銀行、広告代理店、商社など、ハードワークで有名だった会社でもこの10年で一気に働き方改革が進み、以前のように夜中3〜4時まで働くことは当たり前ではなくなっている。
コロナ禍で、強制的にオフィス出勤がなくなったことで、働き方をゼロベースで見直すきっかけが訪れた。それぞれが今までのオフィスでの働き方から離れてみて、感じたことは、「今までの働き方や生き方って、ちょっと異常だったかもしれない」ということだ。