標準化の後の「差別化」の図り方
少し先の話になるが、これから一般に広くMatterが普及したとして、その後にもアマゾンは自社によるスマートホームの「独自性」を打ち出せるのだろうか。MSSのようないわゆるデバイスのセットアップをシンプルにする機能については、CSAに参画するグーグルもまた、現在もBluetooth対応機器のワンタッチペアリング機能として提供するGoogle Fast PairをベースにMatterへの対応を進めている。アップルはiPhoneやiPadを使って、Matterに対応する機器をシンプルに、かつセキュアにホームネットワークにつなぐ機能を提供している。各々のユーザーインターフェースに使い勝手の違いは出てくるものと思われるが、いずれも現在よりシンプルになる方向性は共通している。そのため特段大きな差別化要素にはなり得ないかもしれない。
Matter対応のスマートプラグ。SSIDの選択やパスコードの入力をスキップして、スマホのAlexaアプリから簡単にホームネットワークに接続できる
ならばアマゾンの純正ハードウェアや、パートナーが提供するユニークな「スキル」を独自のエコシステムに囲い込んで、クオリティを高める方向も1つ考えられるだろう。
アマゾンには、独自のエコシステムによってユーザーに最良のスマートホーム体験を届けることを目的とした「Works with Alexa(WWA)認定プログラム」がある。同プログラムはWWA認定バッジを取得する「Alexa対応の安心・安全なスマートホームデバイス」の認知拡大にも寄与してきた。
福与氏によると「WWA認定プログラムの中で、Matterへの対応はベンダーにとって任意の項目である」という。これまでアマゾンが独自に拡大してきたスマートホームのエコシステムは、Matterによってすべてが置き換わるものではない。つまり、Matterの普及拡大後も「WWAにのみ対応するスマートデバイスが存在し続ける」ということだ。
パッケージの外箱などに表示されるMatter、Works with Alexaなどバッヂが対応するエコシステムを見分ける指標になる
サードパーティのベンダーにとってAmazon Alexaだけに対応することが特別なメリットを生むことになるかはわからないが、あるいはMatter対応のデバイスとは別に、特別な機能を持たせた「Amazon Alexa限定モデル」を共同開発して差別化を図る余地も残されているように見える。
スキパース氏は「今後も多くの方々にスマートホームの魅力を体験していただけるように、アマゾンは積極的にMatterへの投資を続ける」と宣言した。Matterがユーザーにもたらすメリットや、MatterとWWAそれぞれの認定バッジの役割とすみ分けについてもこれから丁寧に周知を図りながら、誰もが迷うことなく活用できるスマートホームの発展に尽くしてほしいと思う。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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