広島G7で、VIPたちの宿舎はどうだったのだろうか。外務省は当初、メイン会場のグランドプリンスホテル広島にG7首脳とEU(欧州連合)代表の2人、計9人に宿泊してもらう案をつくった。ホテルにはVIPが泊まるスイートルームも十分あったし、VIPに常に随行する関係者20人分の部屋も提供が可能だった。ただ、ここで、いつものことだが、米国代表団は「俺たちはヒルトン広島に泊まるから」と言って、離脱した。米国の離脱はG7では恒例行事になっている。毎回、300人前後という大規模代表団を率い、ホワイトハウス・ルールの厳重な警備体制を敷くため、いつも宿舎の貸し切りを求めてきたからだ。ここまでは、日本外務省も織り込み済みだった。
では、事務方が一番神経を遣ったのは何だったのだろうか。外務省関係者は「エレベーターの手配が大変でした」と語る。たいていの国はVIPが外遊するときに「エレベーター・ブロック」を行う。宿泊先のホテルの支配人に頼み込み、1基をVIP専用にしてもらう。エレベーターが来ないと、警備に問題が発生するし、VIPの機嫌も悪くなる。日程も狂いかねない。ニューヨークで行われる国連総会では、各国首脳が大勢宿泊するウォルドルフ・アストリアで毎年、各国代表団によるエレベーターの奪い合いが発生する。
グランドプリンスホテル広島では、VIPが使用できるエレベーターは6基だったという。当然、VIP一人ひとりがエレベーターを貸し切りにすることはできない。このため、事務局が各国VIPの行動予定表を入手し、綿密なエレベーター利用予定をつくった。「フランスのマクロン大統領が何時にホテルを出発するから、何号機のエレベーターを利用」といった具合だ。エレベーターの利用時間が近づくと、エスコート役の職員を代表団の部屋に派遣し、「そろそろ出発の時間です」と伝える。もちろん、代表団にも事前打ち合わせや対外連絡などがあり、なかなか時間通りにはいかず、大変だったようだ。