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映画

2023.07.09 11:00

クドカンの脚本でさらに心震わす作品に。 台湾映画のリメイク「1秒先の彼」

映画「1秒先の彼」より(c)2023『1秒先の彼』製作委員会

「1秒先の彼」は、台湾映画「1秒先の彼女」(2020年)のリメイク作品だ。

「1秒先の彼女」については、過去に本コラムでも紹介しているが、台湾映画の異才であるチュン・ユーシュン監督が手がけ、数々の賞にも輝いた彼の代表作。今回の日本版である「1秒先の彼」の山下敦弘監督の言葉を借りれば、以下のような作品となる。

「“時間にまつわるファンタジーラブロマンス”と書いてしまえば簡単に聞こえますが、映画全体にユーシュン監督のエッセンスというか“魔法”みたいなものがふりかけられていて、いったいどうやってリメイクすればいいのか、まったくわからなくなってしまいました」

その「魔法」を解くために、山下監督が助力を求めた「救世主」が、これまた日本を代表する異才の脚本家、宮藤官九郎だったという。以下はリメイクにあたっての宮藤の言葉だ。

「既存の作品のリメイクは初めての経験でした。オリジナルのファニーで可愛らしい印象は残しつつ、せっかく山下監督が撮るのだからと欲張って、人生の苦しみ、もどかしさ、おかしみなどのエッセンスを盛り込み、我ながらいい塩梅に変換できたと思います」

タイトルからもわかるとおり、日本版では「彼女」が「彼」に入れ替わっている。この男性と女性を入れ替えるという提案を受けて、宮藤もリメイクへの確信を得たという。

主人公の郵便局員の「彼」を演ずるのは岡田将生(c)2023『1秒先の彼』製作委員会

「台湾版のキャスティングが完璧すぎたので、当たり前になぞっても新しいものは生まれないし、忠実なリメイクをつくってもしょうがないし。男女反転という強引な改変で一気に世界が開けた気がします」

この宮藤の言葉どおり、「1秒先の彼」は、台湾版の緊密に組み立てられた物語を生かしながらも、随所に独自の味わいを忍ばせる卓越したリメイク作品となっている。

宮藤官九郎らしい心震わすエピソード

ハジメ(岡田将生)は、高校を卒業してから12年間、京都市内にある郵便局に勤めていた。

地元で生まれた彼は、何をするにも人より「1秒」早い。50メートル走ではフライングしてしまい、笑うタイミングも人よりも早く、記念写真ではことごとく目を閉じてしまっていた。

いまは窓口業務を担当しているが、かつては配達員もしており、そのときに付けられた渾名が「ワイルド・スピード」。信号無視とスピード違反を繰り返して免許停止となってしまい、現在の職務へと配転されている。

主人公のハジメは鴨川の河川敷で路上ライブをしていた桜子(福室莉音)と知り合うが……(c)2023『1秒先の彼』製作委員会

作品には、このようなオリジナルのエピソードが随所に盛り込まれ、脚本家である宮藤が生み出す絶妙なユーモアに溢れている。

ある日、ハジメは鴨川の河川敷で路上ライブをしていた桜子(福室莉音)と知り合い、彼女と日曜日の花火大会へ出かける約束をする。当日の朝、いつものように7時少し前に目覚ましが鳴り、勝負服のシャツに着替えて、バスに乗り込むのだが……。
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文=稲垣伸寿

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