経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第13回目は、YOUTRUSTの岩崎由夏が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。
栗俣力也(以下、栗俣):手塚治虫がとても好きだと伺いました。
岩崎由夏(以下、岩崎):「手塚治虫作品だったらナンボでも買ったる」という親の元で育ったんです。小学校のときにたくさん買ってもらい、自分の倫理観や価値基準を形成してくれたのが手塚治虫作品でした。私は神戸出身ですが、手塚治虫は宝塚出身。私は大阪大学出身で、手塚治虫は大阪帝国大学附属医学専門部(現・大阪大学医学部)を卒業しています。
自分中でのロールモデルというとちょっとおこがましいですが、「こういう人がいたんだ」と、勝手に身近に感じていましたね。私は5月生まれなのですが、彼は私が生まれた年の2月に亡くなっています(1989年2月9日死去)。「できれば彼の生きた時代を生きたかったな」と思うときがあります。彼は死んだけれど、私の人格は相当部分を形成してもらったと思っています。
栗俣:今回『ブラック・ジャック』を選ばれた理由はなんでしょうか。
岩崎:『火の鳥』はもちろん、そのほかの手塚治虫作品も一通り読んできましたが、手元に置いて何度もずっと読み返してきたのは『ブラック・ジャック』でした。今でこそ東京でスタートアップの代表をしていますが、もともと私は『ブラック・ジャック』の影響で医者になりたいと思っていました。中高は女子校で医学部進学率の高いところに入りましたが、医学部なんて行けない成績で…。いまは医師という形ではないものの、『ブラック・ジャック』で学んだものが拠り所になっているのかもしれません。
栗俣:『ブラック・ジャック』には医学的知識もかなり描かれています。しかし、偏った価値観、現実の医師にはない価値観の物語です。これは最初に読んだときどう感じましたか。
岩崎:幼いながらにショッキングでした。主人公のブラック・ジャックは無免許医で、ぶっきらぼうでビジュアルも怖い。「無免許の医者が手術をするのは正しいのか」「患者に3000万円も報酬を請求する必要があるのか」と心が揺らぎ、何度も読み返しながらひとりで考えこんだものです。でも読んでいると、この一見すると悪い人が、実は免許をもっている医師よりも正しそうな気がしてきしまう。このように「生きるとは何か」「命とは何なのか」と考え続けるのは『ブラック・ジャック』を読んだからだと思います。