岩崎:ピノコが誕生の話もとても印象に残っています。臓器を組み合わせて、人間という箱に入れたものがピノコじゃないですか。「臓器を集めて人為的につくり上げたピノコは人間といえるのか」「そもそも人間って何なのだろう」「生きるとはどういうことなのだろう」という命題を突き詰めたくて私は大学の理学部に行ったんです。キネシンというタンパク質の分子があって、チョコチョコ歩いているように見えるんですね。
本当に歩いているわけじゃなくて、ただのタンパク質なんですけど。これを「生きている」とは言わないのに、それが集まった人間を「生きている」というのは何なんだろう。『ブラック・ジャック』の影響でいろいろなことを考えるようになりました。
何が生きているのか、何が生きていないのかの境界が知りたくて理学部化学科に入った結果、生死の狭間は私にはわからなかったのですが、人々が何をもって幸せと感じるのか、どういうときに感情が動くのかに関しては、人より感度が高くなりました。自分はそういうところで商売というか何か生きる意味、他人にとっての生きる意味を作れたらいいなと思って、いま人をつなぐキャリアSNSのYOUTRUSTをやっています。
栗俣:『ブラック・ジャック』から人の生きる意味や幸福について考えるようになった。
岩崎:そうですね。いま、私は「起業してお金を稼ごう」といった欲望はありません。生きる意味を自分の中で持てるようになったり、生きている人たちに幸せであってほしい。そういう意味で会社を作って事業をやっています。『ブラック・ジャック』的な言い方をすると、今の日本は病気だと思うんですよ。でもこの国はまだまだやれると思います。私はこの国が勝手に自分たちで「ヤバイ。もう無理だ」と思っているのを治したいし、我が国にいる人たち皆に幸せであってほしい。そのためにはまず私たちがやる姿を見せたいし、そういう会社を増やしたい、そう思いながら今日も仕事をしているのです。
【聞き手・企画協力】栗俣力也◎TSUTAYA IPプロデューサー。「TSUTAYA文庫」企画など販売企画からの売り伸ばしを得意とし、業界で「仕掛け番長」の異名をもつ。漫画レビュー連載や漫画原案なども手がける。