経済・社会

2023.07.04 10:30

ハリポタ著者も論争に参戦、マスクの「シスジェンダーは中傷」説の問題点

安井克至

Getty Images

米ツイッターを所有するイーロン・マスクが先月、「シスジェンダー」や「シス」いう言葉はツイッター上で「中傷」とみなされると言明し、嫌がらせをしたアカウントは少なくとも一時的に停止されると警告した。あるユーザーがシスというレッテルを貼られたと訴えたのがきっかけだった。シスジェンダーの意味や、なぜこの言葉をめぐって意見が二極化しているのかあらためて確認しておこう。

シスジェンダーとは?

シスジェンダー(cisgender)とは、出生時に割り当てられた性別と性自認(ジェンダーアイデンティティー)が一致している人のことを指す。シス(cis)はその短縮形だ。言い換えると、シスジェンダーは「トランスジェンダーでない人」のこととだ。たとえば、マスクは出生時の体の性が男で、いまも自分を男性と認識しているとみられるから、彼のことをシスジェンダーと呼ぶのはまったく正当だろう。

cisやtransという接頭辞は性以外にも用いられる。メリアム・ウェブスター辞書によると、cisは「〜のこちら側の」、transは「〜の向こう側の、向こう側に」を意味する。

たとえば飛行機でピッツバーグからパリへ行く場合、そのフライトは「transatlantic」である。ピッツバーグから見てパリは大西洋(the Atlantic)の「向こう側に(trans)」あるからだ。これに対してシカゴからフィラデルフィアに飛ぶ場合、フィラデルフィアは大西洋の「こちら側」にあるので「cisatlantic」なフライトということになる。化学の世界では、原子が二重結合の軸の同じ側にある化合物を「シス」体、反対側にあるものを「トランス」体と呼ぶ。

引退した研究者のダナ・デュフォスは、シスジェンダーという用語はトランスジェンダーでない人を指すために、大学院生だった1994年に自身が考案したとハフポストに書いている。その後、この単語はよく使われるようになり、2010年代半ばにメリアム・ウェブスター辞書やオックスフォード英語辞典に掲載された。では、なぜツイッターは、このように広く受け入れられている言葉の使用に反対しているのか?

シス=正常、トランス=異常という発想

デュフォスはシスに関するマスクの発言を受けてサンフランシスコ・クロニクル紙に寄せた論説で、一部の人がシスジェンダーという用語を好まない理由は、それが「性自認は生物学的な性によって決まるという誤った言説に異議を唱える」ものだからだと説明している。性自認が出生時に割り当てられた性別と異なることがあると考えない人たちにとって、シスジェンダーというのは「余計な」用語になるというわけだ。

「ハリー・ポッター」シリーズで知られる英国の作家J・K・ローリングは、こうした論理でマスクの考えに賛同している。「『シス』というのは特定の考え方を反映した言葉であり、性自認という反証不可能な概念を信じていることを示している。人は、体の性と一致するかもしれないし、しないかもしれない証明不可能な本質を信じる完全な権利があるけれど、ほかの人たちは、その人の使うわけのわからない言葉に異を唱え、使うのを拒む権利がある」彼女はそうツイートしている。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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