「2019年ごろが最もどん底でした。社内で不満が噴出し、組織の体すら成していなかったと思います」。東京・港区に本社を置き、全社員がフルリモートでコンサルティング事業を展開するRELATIONSの代表取締役、長谷川博章は振り返ってそう話す。
RELATIONSは2009年、ベンチャー・リンクの社員7人によって、リーマン・ショックの影響で突然撤退を決めた事業の顧客との関係性を引き継ぐために設立された会社だ。利益を優先するあまり、人が大切にされていないと感じた長谷川は、それとはまったく異なる会社をつくりたいという思いが、創業当初よりあった。
2017年より組織のフラット化を目指し、ホラクラシーを導入。しかし、一気に役職を取り払い、フラット化を推し進めたために承認プロセスが混乱し、またトップ・ダウンとボトム・アップの対立軸に加えて、主力のコスト改善のコンサルティング事業と、いくつか立ち上がった新規事業の間であつれきが生じていた。創業メンバー同士で深く対話し、その対話内容を全社ミーティングで伝えたところ、それがまた大炎上したという。
「いままで『フラット』と言っていた人が急に下りてきて、方向性をただすのはどうなんだ、といったものや、いろんな声が飛んできました」。それをきっかけに、すべての社員と1on1ミーティングを行った長谷川は、衝撃を受けた。
「あれっ。誰もこの会社にコミットしている人がいないって思ったんです」
そこで長谷川は、もう一度自身が真ん中に立つ決意をした。そして主力事業や新規事業の担当者とも対話を繰り返し、結果、2020年末頃、新規事業の2つをEBO(エンプロイー・バイアウト)することに決めた。
「難しかった点は、新規事業に、会社の理念と重なっている部分と、重なっていない部分があったことです。例えば、ひとつは組織改善のためのSaaS事業でしたが、内容そのものは理念に沿っているものの、SaaS事業が必然的に内包する、ウィナー・テイクス・オールのスタートアップ的価値観が合わなかった」。そこは自身が決断しなければならないことだったと、長谷川は語る。
2021年4月、事業譲渡のメンバーを含め、会社を離れることになった社員とともに行った「卒業式」ではさまざまな感情が込み上げ、スピーチでは涙があふれた。それが自身にとっても社員にとっても、新たなスタートの精神的きっかけになった。