そこはインドのタミルナードゥ出身のテーヴァン・マハリンガムさんがオーナーシェフを務める店だ。普段は南インドのチェティナード料理の店なのだが、その日だけは、日本では相当レアなジャンルである「インド中華」が味わえるということで、多くのインド料理ファンが来店した。
この食事会に筆者を案内してくれたのは、インド食器輸入販売会社「アジアハンター」を経営するインド・ネパール料理専門家の小林真樹さんだ。彼によれば「マハリンガムさんは来日前にインド中華の調理をしていた時期もあり、実は得意なのです」という。
ブッフェスタイルの食事会で、キッチン前のカウンターに数々の「インド中華」なる料理が並んでいた。見た目は焼きそばやチャーハン、フライドチキン、春巻きなど、いわゆる中華料理なのだが、そのネーミングが面白い。
「シュエズワン・マトン・ヌードル」「チキン・マチュリアン」「アメリカン・チャプスイ」など、聞きなれない料理名ばかり。いったいこれはどんな料理なのだろうか。
「食べ歩くインド 北・東編」(旅行人刊)をはじめ、インド・ネパール料理に関する著作もある小林さんはこう解説する。
「インドにはインド中華というジャンル名の料理が存在し、その一部を日本国内で提供する店があって、一部のマニア層から注目されています。
インド国内ではイギリス支配時代に中国南方の広東周辺からの移民が主に東インドのカルカッタ(現コルカタ)に古くから定住していて、市内には大まかに2カ所、チャイナタウンと呼ばれる集住マーケットがあります。そのうちティレッタ・バザールでは、インド化した中華料理を出す朝市が立ち、名物となっています」
インド中華に特徴的な2つの味
「インド中華」とはどんな料理なのか、具体的に紹介しよう。都内23区でいちばん中国籍の住人が多い江東区にある大島は、インド系インターナショナルスクールがあり、インド系住民やインド料理店も多いというもう1つの顔を持つ。都営新宿線西大島駅に近い南インド料理店「マハラニ」を訪ねた。
この日も小林さんには同行していただき、メニューに並ぶインド中華を解説してもらった。