上長の視点も加味する
ただ、ここで上長の視点に立ってみてほしい。仕事を任せる側からすれば、「できるかどうか判断がつかない仕事」をアサインするのには当然慎重になる。その機会を任せてもらうためにも重要になるのが、今までの仕事への向き合い方や、どのようなプロセスで成果を積み重ねてきたかだ。「できるかわからないが、賭けてみたい」と期待される、自己資本の大きい人材になっているか。自己資本とは、要はその人の「信頼」だ。企業は自己資本があれば、それをテコに外部からお金を調達できる。個人は自己資本があれば、それをテコに新たな「機会」を調達できる。そしていざ任されたら、困難に直面しても、積み重ねてきた信頼をベースに社内外の人材を巻き込み、達成し、さらに成長し、価値を高めていくのだ。
少し抽象的な話が続いたので、具体例で考えてみよう。「同じ年に新卒入社した同期と、2〜3年、5年と経つうちに大きな差が付いていた」と感じる人は、少なくないと思う。それが、10年も経てば、意識と行動の有無によって、さらに歴然とした差になる。
ある大手人材企業に同期入社で入った2人で考えてみよう。
1人は、入社当時は優秀で将来を嘱望されていた人材だ。学生時代からサークルの中心にいて、コミュニケーションは得意だった。営業もそこそこ楽にこなせ、入社1年目は上位の営業成績。賞与も出て待遇もよかった。同期の中でも目立っていた。
とにかく、よりインセンティブにつながりそうな商品を売り込んだ。成果も出て、周りからも認められ、報酬もよく、さしあたりは楽しく過ごせていた。
しかし、3年目から急激に伸び悩む。扱うメイン商材が変わったのだった。それまでと違って、経営者や発注者の課題を理解したり、ソリューションを提案する営業が必要になったのだが、そうした取り組みはしてこなかったため、能力が高まっていなかった。
驕った態度が出ていたのか、周囲からの信頼もあまりない。いまさら他者に頼れなかった。プライドの高い本人に上長も積極的に手を貸そうとはしなかった。営業成績も伸び悩み、次第に「他社よりも魅力的な商品がない」と、日々愚痴を言うようになっていった。
いうなれば、PLの短期を追うばかりで、自己資本と呼べる信頼関係が積み上がっていなかったパターンだ。
もう1人の同期。やや口下手で、最初は即興の営業ができるタイプではなかった。ただ、1年目から上長を捕まえては何度もロープレ(実践を想定した練習)をし、営業先に断られても、自身の何が課題でどうすればよかったのか、反省と改善を繰り返した。
商材ありきの営業しかしてこない他の営業との違いを、徐々に顧客企業の経営者から評価され、戦略面での課題や、その先の経営方針まで相談される存在になっていった。
最初はどん底だった営業成績も、2年目にはトップレベルになった。苦しいメンバーの気持ちもわかるため、マネジメントにも定評があった。4年目には、誰よりも早くマネジャーに昇格。その後その経験を活かし、営業から商品開発の部門に移り、さらに活躍している。
PL的な短期視点に陥らず、いかにレバレッジを利かせて資産を高められるか、そのための自己資本(他者からの信頼)をいかに築くかを意識し、一時的には困難を経験しながらも、他者から機会(負債)の調達を重ねて、成長を一気に加速させたパターンだ。