キャメロン、タイタンの構造は「実験的」すぎると警告していた……
科学者とエンジニアがこの高度なチャレンジに力を注ぐ中、映画監督ジェームズ・キャメロンは、タイタニック号の悲劇を引き合いに出しつつ、こういった試みにおける安全性の重要さと、警告を無視することの潜在的な危険について強調している。キャメロンは今回の事故前、ABCニュースでのインタビューで、爆縮したオーシャンゲートの潜水艇「タイタン」のタイタニック号沈没現場へのミッションについての懸念を語っていた。彼は、潜水艇タイタン内が密閉空間であることと、タイタニック号の残骸まで潜るにはその設計がきわめて「実験的」であることを強調していた。実際にタイタン潜水艇の残骸が発見されたことで、圧力室が悲劇的に損壊していることが明らかになった。
この不運な探検ツアーの数年前から、専門家たちはこの潜水艇タイタンの安全性について懸念を示し、さらなるテストと認証を行うよう求めていた。「ニューヨーク・タイムズ」紙は、海洋技術協会(the Marine Technology Society)が軽微な事故の可能性から大惨事の可能性に至るまで、潜在的な危険について警告を発したと報じている。キャメロンは、同じく警告が無視され、悲劇につながったタイタニック号の事故と今回のタイタンの事故を冷ややかに比較した。
タイタニック号沈没現場に潜水艇で潜った、何度も──
この問題についてのキャメロンの視点は、映画監督ならではのユニークなものといっていい。彼は1997年の超大作映画「タイタニック」のため、実際にタイタニック号を徹底的に調査し、実際の沈没現場に何度も潜水艇で潜っている。彼は、タイタニック号の沈没地点の3倍の深さに到達できる潜水艇までをこのために実際に設計し、建造したのだ。キャメロンは、深海潜水は厳格な安全プロトコルが確立された分野であり、潜水艇タイタンは、あらゆる深海潜水艇が準拠すべき国際的な「ゴールドスタンダード」を満たしていないと強調した。今回のダークマター探査機の打ち上げもしかりだが、これらキャメロンの発言は、安全に関する警告に注意を払い、過去の過ちから学ぶことの重要性を思い起こさせる。科学者や技術者が限界に挑戦する際には、参加者の安全を最優先し、適切な保護措置が講じられていることを確認することが重要だろう。
もちろん、今回のダークマター探査機の打ち上げは、われわれ人類が宇宙の大きな謎に迫る上での大きな希望となり得る。タイタニック号や潜水艦タイタンのような歴史的悲劇からの教訓を生かすことは、人命を守りつつ科学の進歩を促進する、より安全で実りある事業への取り組みに役立つはずだ。
※本稿は、英国のエンジニアたちが立ち上げたテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」からの翻訳転載である。