高齢化の進む団地に学生の寮を設置した、神奈川大学サッカー部のケースだ。学生と地域の高齢者が出会うことによって、どのような化学変化が起きたのだろうか。
高齢化率45%の住民との交流 初めは戸惑いも
横浜市緑区にある竹山団地は1971年に完成し、最も住民が多かった時には1万人以上が暮らしていたというが、現在では6500人ほどに減少。しかも65歳以上の住民が占める割合「高齢化率」は約45%と高く、解消すべき課題となっていた。そんな団地の一部を2020年にサッカー部の寮として利用し始めたのが、神奈川大学サッカー部。学生が自治会と連携して花火大会や防災訓練など地域の行事をサポートしたり、高齢者を対象としたスマホ教室の支援をしたりするなど、地域の住民との交流を深めている。
この交流が始まった経緯を、大学の教育方針と方向性は同じだと語るのは、サッカー部の大森酉三郎監督。
「神奈川大学は、2018年に『ダイバーシティ宣言』を行い、『国内外から集う多様な学生と教職員一人ひとりの人権と自由を守り、さまざまな違いを個性として認め合う大学コミュニティを創造すること』を目指すと表明しました。そもそも建学の当初から、SDGsというような言葉はなかったものの、同様の考えを標榜してきたという経緯があります。
学生たちが団地に住んで地域活動に参加し、大学の知見を生かしながら地域を活性化していこうじゃないかというのは、まさに大学の「教育は人を造るにあり」という想いがSDGsの文脈の中で実現したことなのです」
この寮ができたときに入学し、現在(取材当時)3年生の山口佳祐さんは、小学生の頃からサッカーをしていて、大学でも続けたいと神奈川大学を志望したと言う。入学してみたら団地の寮に住むことになり、戸惑いはなかったのだろうか。
「僕が神奈川大学に入りたいと思った決め手は、サッカーの練習を見に行ったら、当たり前のことかも知れませんが、先輩たちが自分たちの活動する場所をきちんと掃除していたり、挨拶が徹底されていたりしたこと。そして、大森監督の考え方に惹かれたということもあります。
入ってみたら、普通の寮ではなかったので正直、最初は戸惑いを感じました。でも、団地の住民の方は優しい方が多いですし、“いつもありがとうね”とか“サッカー頑張ってね”と声をかけていただくとすごく嬉しいなと思います。今ではすっかり馴染んでいますね」(山口さん)
住民が学生たちに優しく接するのは、彼らの中に高齢者を積極的にサポートしようという気持ちがあるからだろう。その活動のひとつがスマホ教室。竹山団地では、地域の医師が中心となって高齢者がスマホを学ぶ仕組みを立ち上げたものの、教える人がいなくて困っていた。
そこで、“是非我々に手伝わせてほしい”と手を挙げたのが大森監督。願ってもない申し出だったに違いない。
「スマホ教室ではLINEの使い方とか、自分のLINEアドレスを練習台にして、お友達追加の方法とかを教えます。すると、教えた方から後日LINEが来たり、道を歩いているとちょっと教えてと言われたりもします。僕ではないんですが、ある方からLINEが来て“家からソファーを1階に下ろしたいんだけど”と相談された仲間もいます」(山口さん)
コミュニケーションツールであるスマホの使い方を教えることによって、関係がより密接になったというのはとても興味深い。