ムンバイのスラム街と高層ビル群 /GettyImages
「自分は何て甘えた生活をしているんだ。自分が行きたいところに行けるのに、絵もまともに描けないなんてバカじゃないのかと思いました。そして、帰ったら一生懸命描こうと決めました」
「一期一会」という言葉との出会い
帰国後は、インドで出会った人や光景を思い出しながらキャンバスに向かった。まだ何を描けばいいのかわからなかったので、現地で撮った写真を元に、まずは老婆の絵を描いた。するとすごく良いと思える絵ができあがった。現地で出会った物乞いの少女、描いた老婆には、もう二度と会うことはないだろう。そう思ったとき「一期一会」という言葉が浮かんだ。そして考えたのは、一期一会は旅先だけで起きているのではなくて、日常的に起きているんだということだった。
「みんな毎日変化があって、同じ人でもわずかに変化を続けています。今、目の前にいる人とまったく同じ人に出会うことは二度とないんです。そのこと気づいたとき、“なるほど”と腑に落ちました」
こうして井田の大きなテーマである「一期一会」が生まれた。
インドの旅をきっかけに、「描くべきモノ」を見つけた井田。今も何を書いていいのかわからなくなることはあるというが、それはかつての「わからない」とは大きく異なっている。
「思いだせば描くことはいくらでもある。今は自分の引き出しにたくさん詰まっているものの中から探し出す作業が大変なんです。思い出はいっぱいあるし、新しい出会いもあるから。描くべきモノもできて、気力もついてきたのは、インド旅行が一番大きなきっかけでした」