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2023.07.02

米大学入試での人種考慮禁止、企業の多様性施策に影響も

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米最高裁は、大学が入学選考で人種を考慮する「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」は憲法に違反するとの判断を下した。これにより、企業の雇用も見直しを迫られることになるかもしれない。

判決は大学の入学選考を対象としたものであり、企業の雇用や社内の多様性への取り組みに直接的な影響はないとみられる。しかし一部の専門家は、この判決により企業の間では、多様な人材の雇用方針や社内の多様性向上施策をめぐって訴訟を起こされる懸念が生じ、「萎縮効果」をもたらすとみている。

ノースウェスタン大学多様性・民主主義研究センター所長のアルビン・ティレリー教授(政治学)はフォーブスに対し、こうした訴訟は必ず起こるだろうが、それでも企業は「職場の多様化に関する目標や基準値を設定することはできる」と説明。真剣に多様化に取り組んでいる企業は「多様性という切り口を捨て」、公民権法に基づく差別撤廃に焦点を当てるなどして、逆境のなかでも多様性の取り組みを継続する方法を見つける一方、もともと真剣に取り組んでいない企業は多様性への言及をやめるだろうとの見通しを示した。

雇用法と多様性を専門とするラトガース大学法学部のステイシー・ホーキンス副学部長も、今回の判決が大学の入学に焦点を絞ったものであれば、企業の雇用や多様性施策に直接影響を及ぼすことはないはずだと指摘。一方、テンプル大学ロースクールの公正性・多様性・包括性を担当するドン・ハリス副学部長はフォーブスに対し、ホーキンスの意見に同意しつつも、「今回の判決は、他の分野での多様性施策を標的にした訴訟を起こすことを可能にするものだ」として、将来の訴訟を助長する可能性があると警告した。

アファーマティブ・アクションは、1965年の大統領令で初めて導入された。この大統領令は、雇用主に対して「雇用のあらゆる面で平等な機会が確保されるよう積極的な措置を講じる」よう求める内容だった。

米国では現在、連邦および州の雇用差別禁止法により、多様性を高めるためであっても、企業が採用時に人種を考慮することは認められていない。しかし、2020年のジョージ・フロイド殺害事件をきっかけとした抗議デモを受け、企業の多様性施策は急増。LinkedIn(リンクトイン)によると、過去4年間で、多様性&包括性責任者の採用は168.9%増加している。

一方、米紙ワシントン・ポストによると、アマゾン、ツイッター、ナイキなどの一部大企業はその後、こうした役職を削減。こうした企業の多様性施策は短期的なもので、社内の行動と社外向けの体裁が一致していないとの批判を呼んでいる。米国では現在、企業の80%が何らかのDEI施策を導入していると推定されている。

今回の判決が企業に与えるもうひとつの潜在的影響は、アファーマティブ・アクションが禁止された大学が輩出する人材の変化だ。アップル、ゼネラル・エレクトリック(GE)、スターバックスなど大手企業60社は数カ月前、今回の訴訟の対象となったハーバード大学とノースカロライナ大学を支持する準備書面を提出。「人種と民族の多様性は業績を向上させる」と主張し、大学には企業が採用できる多様なリーダーを輩出してもらう必要があると訴えた。

forbes.com 原文

翻訳=上西雄太・編集=遠藤宗生

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