暮らし

2023.07.08

外部とのつながり方を再考する。閉ざすための橋

「オープンイノベーション」という言葉が広がり、いまや大企業も当たり前のように外部とつながって新たな価値創出に向けた取り組みを行っている。しかし、外に開いていくことだけが正解なのか?否、イノベーションのためにはあえて「閉ざす」ことも大切だ。本来は外部とつながるために架ける橋の役割を見直し、閉ざすために橋を架ける考え方や、実際に起きている取組みなどをご紹介する。


「橋というと、何かと何かをつなぐロマンティックな存在だと考えがちですが、橋がもつ機能はそれだけではありません。橋には閉ざす役割もあったのです」

そう教えてくれたのは長崎市にある出島の学芸員、山口美由紀さん。2022年11月に開催した「出島組織サミット」というイベントでの話だ。出島組織とは、本体組織からはみ出して新しいことを生み出すためにつくられたチームのことで、出島組織サミットには世界中から30社の出島組織が長崎の出島に集結した。サミットでは学芸員の解説付きで出島を見学する「スペシャル出島ツアー」が実施され、そこで冒頭の話を聞いたのだった。

鎖国時代、出島に入るのを許されていたのは商館員たちと、一部の日本人の役人や商人、長崎の遊女たちだけ。橋によって入り口を一カ所に限定することで、本土から閉ざす役割も果たしていたのだ。

サミット当日、いくつかの出島組織に「本体組織との橋のかけかた」について話を聞いた。シンガポールから参加したOcean Network Express(通称ONE)は本社との物理的な距離が橋として機能している。

ONEは日本郵船、商船三井、川崎汽船、3社のコンテナ船事業部門統合によりシンガポールに設立された出島組織だ。17年に発足し、18年4月1日から事業運営をスタート。それから5年後の現在、超大型コンテナ船44隻を含む200隻超の船隊を運航し、世界120カ国との間で130の定期航路を提供するネットワークを構築している。

ONEが本社を日本ではなくシンガポールに置いた理由のひとつが、3つの親会社から距離を置くことで、一定の裁量権を担保できる仕組みを構築するためだった。スタートアップ誘致なども盛んなシンガポールの雰囲気もあり、日本から離れた場所のほうが、自由な発想になるという思惑もある。出島組織から新しいものが生まれやすいのは、離れることによってクローズドな環境をつくれるからだろう。

出島には行くな

似たようなケースがある。新たなヒット商品をつくるための、カルビーの出島組織「カルビー フューチャー ラボ」は、広島に拠点を構えた。「創業の地広島で、第二の創業をするため」との意気込みもあったというが、東京から物理的に離れている広島に拠点を置くことで本社からの余計な横やりが入らないようにする狙いもある。さらにフューチャーラボが設立された当時、会長は役員に対して「フューチャーラボにはあまり行きすぎないように」と言っていたとかいないとか。一休さんに出てくる「このはしわたるべからず」の立札を立てるようなものだろうか。なんでもかんでもオープンにしておけば新たなことが生まれるわけではない。そうやって本社からあえて距離をおいた環境をつくり、新しいことをやるために必要な自由を獲得した。
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文=鳥巣智行 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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