これを日本で先頭に立って進めているのが、スタートアップの「Shippio」だ。
同社のサービスは、海外から部品を輸入し、それを製品化して輸出するような、月に何百件もの海外取引を行っている国内の大手メーカーや商社が対象だ。
国際物流の現場で大変なのは、船舶を運行する船会社、倉庫を持つ保管事業者、海上と陸上輸送を中継する港湾運送事業者、通関手続をする通関業者、そして荷主から荷物を預かりこれら各事業者を調整するフォワーダー(輸送手段を持たず輸出入の業務を仲介する事業者)など、とにかく介在する業者が多いことだ。
例えば、自然災害や感染症、さらに政情不安などによって、荷物を載せた船が予定の港に入れないトラブルが生じると、業者たちとの間で対応策を協議して、再びすべての段取りを整え直すのに多大な時間とコストがかかる。またトラブルの発見が遅れたりすれば、ダメージはさらに拡大してしまうのだ。
商社勤務10年の経験を活かし創業
このようなリスクを軽減するため、Shippioは、2つのサービスを提供している。1つは、同社がデジタルフォワーダーとして輸出入の業務を担う。顧客はクラウド上で荷物の情報を管理できるので、利害関係者との調整が円滑にできる。
もう1つは、荷物がいまどの船に積まれていて、目的地にいつ入港するかなどの情報を顧客がひと目でわかるよう可視化している。すると在庫管理が適正にでき、トラブルが生じたときの被害を最小限にできるわけだ。
これらのサービスによって、国際物流分野に効率化と品質向上をもたらしているのだ。
Shippioの創業者である佐藤孝徳(40)は、2006年に三井物産に就職。中国に赴任したときに投資業務を担当して、ある新興企業が世の中を変えていく姿を目の当たりにした。さらに同社の経営陣の話を聞く機会も多く、彼らがベンチャー精神を持って、三井物産を世界企業に成長させてきたことにも感銘を受けたという。
商社で勤務して10年。ひととおりの経験を積んだ佐藤は、今度は自分の番だと確信して三井物産を退社。現在のShippioを創業した。
スタートアップといえば、経営の軸足を定めながらも、方向転換を繰り返しながら成長していくことが多い。だが、同社は創業から事業に関してはいっさいブレることがなかった。最初の「打ち手」が正解だったという稀有な存在だ。その理由を佐藤に聞くと、次のように答えた。
「島国の日本で輸出入はなくなりません。この分野のDXでは、商社勤務で得た経験や知識を活かすことができました。商社で働くうちに、すぐにではなく、7年から15年という長いスパンで事業拡大させればよいと考えるようになりました。最初からきっと上手くいく分野だと思いました」
しかも佐藤は、わずか3カ月ほどでこのビジネスを思いついたというから、驚くほかない。