横浜港を支えてきた老舗海運会社を買収
Shippioの事業が順調に伸びてきた昨年7月。同社は、横浜にある通関事業者である協和海運の全株式を取得する。まだ軌道に乗りきっていないスタートアップが、1960年創業で横浜港を長く支えてきた老舗企業を買収したのだ。この決断について佐藤はこう言う。「当社の将来を考えると、隣接領域の通関業への事業拡大は必須です。しかも協和海運には、これまで積み重ねてきた実績と多くの顧客からの信頼も得ている、われわれが持っていなかった現場のノウハウが凝縮されていたのです。事業拡大をともに目指せるパートナーだと思いました」
買収によりグループ入りが決まると、協和海運のメンバー全員がShippioのオフィスに集まった。佐藤からこれからのビジョンなどの説明をしたのだが、協和海運だけでなくShippioの社員たちにも、何ともいえない緊張感があったという。
当初、両社の誰もが互いに理解し合うまで時間が掛かると考えていた。ところが、協和海運側がこれも新しい刺激だと前向きにとらえ始めると、あっという間に両社の社員は打ち解けたというのだ。
社内でWi-Fiすら使っていなかった協和海運では、いまでは情報共有のツールにslackを使っている。協和海運の代表取締役である鈴木文雄に話を聞くと「最初は戸惑いがあったが、徐々にお互いのやり方が融合してきた。これを進めることで、より良い物流サービスをつくっていける」と語る。
さらに、Shippioの次世代のリーダーにとして期待している人材には、協和海運と一緒に働いてもらっている。買収してノウハウさえ入手すれば、切り捨てるのはよくあることだが、佐藤からそんな意識はみじんも感じられない。
というのも、岸田政権が「新しい資本主義」を実現させようと「スタートアップ育成5か年計画」を掲げて、人と仕事をスタートアップに集中させて、成長させていこうとするのが国全体の重要施策となっているからだ。
それを自分の立場に重ね合わせて、佐藤は次のように断言した。
「これまで日本経済の土台をつくってきた人たちとスタートアップを掛け合わせて、再び日本を成長軌道に乗せることこそが『新しい資本主義』ではないか」
実は、世界を見渡すと、国際物流の分野にはDXを進める時価総額10億ドル(約1400億円)以上のユニコーン企業がいくつか存在している。米国の「フレックスポート」やドイツの「フォート」だ。
このように地域ごとに有力企業が存在するのは、規定や商慣習が地域ごとに異なるだけでなく、物流はインフラなので海外の会社に担わせるのは安全保障上のリスクがあるからだと言われている。
じつをいうと、彼は私が担当していたシリコンバレーVCの500 Startups(現在の500 Global)と神戸市による起業家育成事業の卒業生だ。起業した翌年にもかかわらず、神戸や大阪の海運会社などへの営業に奔走していたのを昨日のことのように覚えている。
そんな佐藤が狙うのは、国際物流の世界での日本標準の確立、つまりこの分野での日本を代表する企業になることだ。昨年秋には新規投資を得て、累計調達額は30億円。協和海運を含めたグループ企業で働く社員も100人を超えた。彼の挑戦が日本経済に大きな影響を与える日も、そんなに遠くはないだろう。