それまでマスクは、BBCのインタビューの中で、愛犬のフロキがツイッターのCEOに就任したと繰り返し主張していた。ツイッターのスタッフの中で最も熱心な動物好きでも、たとえフロキがアップルのスティーブ・ジョブズが愛した黒のタートルネックを着ていると言われたとしても、自分のキャリアが犬小屋の中に入れられたと感じたに違いない。
また黒のタートルネックは、不祥事を起こしたセラノスのCEO、エリザベス・ホームズのお気に入りの服装でもあった。
テスラの最高経営責任者であるマスクがツイッターのCEOとして君臨していた混乱の時期、彼はツイッターの従業員の75%を削減し、突然のポリシー変更を実施し、他のツイッターユーザーを頻繁にからかった。マスクは表面的な魅力、社会規範に反する行動、共感や反省の欠如といったサイコパスによく見られる特徴をいくつか示しているように思える。
だが、これは驚くべきことではない。企業界のリーダーシップと非暴力的なサイコパスとの関連性は広く認識されている。この種のサイコパスな企業リーダーは、HBOのヒットショー「サクセッション」に登場するロイ家のように、ポップカルチャーにも多く存在する。
サイコパスなリーダーは、人々をコントロールできる指導的地位に惹かれることがあるのだろう。この種のいわゆる「成功したサイコパス」は自己主張が強く、創造的で、魅力的であるなどの、効果的なリーダーシップに広く関連する特徴を示している。
では、成功したCEOになるためには、サイコパスの傾向を示さなければならないのだろうか? ウィーン経済・経営大学(WU Vienna)の新たな研究は、そのことに関しては否定的だ。
マキャベリズム的傾向
過去数十年間における最大のビジネススキャンダルに関与した6人のCEOの詳細な評価では、いずれのCEOもサイコパスの診断基準を満たしていないことが示された。この研究では、Psychopathy Checklist-Revised(PLC-R、改訂版サイコパスチェックリスト)を使用して各CEOの性格特性を評価し、それらがどのように合致してしているかが調べられた。ウィーン経済・ビジネス大学のギュンター・K・シュタールは「CEOたちのスコアはすべて平均を上回っていましたが、サイコパスの診断閾値は下回っていました」と述べている。
とはいえ、リーマン・ブラザーズのリチャード・フルド、アルカンドールのトーマス・ミッテルホフ、エンロンのジェフリー・スキリングといったCEOを対象としていたこの研究では、すべてのCEOが他人の操作、詐欺、嘘つきといったマキャベリズム的傾向を強く持っていることが発見された。
2人のCEOは、自己顕示欲や絶えず賞賛と尊敬を求める欲求、批判に対処する能力の欠如といった、ナルシスティックな特性を示した。