政治

2023.06.27 12:00

プーチン、さらに執念深くウクライナの原発を狙う可能性

各国は何ができるか

ウクライナでの戦争は、ロシアが原発の燃料となるウランを世界中に供給すべきなのかという深刻な疑問を提起している。そしてバイデン米政権は、ロシアへの制裁を検討しており、その制裁は世界のエネルギーに大きな影響を及ぼすかもしれない。

米エネルギー情報局によると、ロシアは米国が使用するウランの約14%を供給しており、2022年の取引価格は10億ドル(約1435億円)だった。その約4分の3は長期契約で購入されている。また、ロシアは欧州のウランの20%を供給してもいる。世界のウランの3分の2はオーストラリア、カナダ、カザフスタンが生産しており、ロシアのシェアは10%にとどまる。

一方、ロシアは世界のウラン濃縮能力の半分近くを担っている。ウラン濃縮とは採掘されたウランを原発燃料として使えるようにする過程を指す。

ロシアは高度な原発に必要な高濃縮ウランを供給しているため、経済的な影響力を持っている。原発事業者や業界は第4世代の高温ガス炉を使用している。摂氏800度で稼働するため、化学物質を処理し、海水を淡水化し、電気や輸送用のクリーンな水素を製造することができる。

2050年までに温室効果ガスの排出と吸収量を均衡させることが目標だとしよう。その場合、米国では原子力発電を倍増させなければならないと米エネルギー省は指摘する。そのためにはより多くのウランが必要で、米国は自国で賄えるようになるべきかという問いに行き着く。

各国はウランと技術の供給ラインを多様化できるだろうか。ロシアが市場を支配している現状を考えると、短期的には無理だろう。だが各国は無力ではない。原発事業に参入したフィンランドのFennovoimaは昨年、ロスアトムとの契約を取り消した。また、英国はロシアと関係のある86の個人・団体に制裁を科し、ウクライナでの戦争に資金を提供できないようにした。

米国では、原子力規制委員会がオハイオ州パイクトンにある米国遠心分離機プラントとニューメキシコ州ユーニスの国立濃縮施設での高濃縮ウラン製造を認めている。GHS(Global health strategy)の気候白書には「重要なことに、米国におけるウラン濃縮能力の拡大は、米国と世界の脱炭素化目標を達成するためにも必要だ」とある。

ワグネルとロシア政府の対立により、プーチンは今後鉄拳で対応し、ウクライナ人をさらに脅し、ザポリージャ原発に危害を加える可能性がある。ロシアがこの分野で突出した存在であることを考えると皮肉だが、西側諸国の政府がロシアのウランや原子力技術をボイコットする理由は十分にある。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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