2021年度から順次、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して定型業務の効率化を推進。今年4月には病院内のデータを一元管理する「データセンター」を設置、院内固定電話とPHSを廃止して520台のスマートフォン(モバイル電子カルテ)を導入するなど、矢継ぎ早にDX施策を打ち出している。消化器内科医で長男の神野正隆氏が理事長補佐として理事長を支え、DXが大きく進展している。
恵寿総合病院の病院DXの起源は、30年前にさかのぼる。神野理事長が1993年4月に院長に就任して間もない頃だった。取引のあった銀行の新任支店長があいさつに訪れた際に放った一言を神野理事長は忘れない。
「貴法人の財務状況はかなり深刻で、このままでは職員に給与を支払うこともできなくなるでしょう。当行としては新規融資も難しくなります」。
それまで臨床現場一筋だった神野理事長は、その言葉に衝撃を受けるとともに、院長に就任して早々、病院トップとしての責任の重さを実感することとなった。その頃、介護施設を複数開設したり、心臓血管外科を立ち上げたりするなど積極的な設備投資をしていただけに法人の財務状況は悪化。経営改善は急務の課題だった。神野理事長は冗談まじりに、当時のことをこう話す。
「お金を預けたらティッシュをくれるのが銀行なのかと思っていたら(笑)、突然、当法人の財務状況が悪化していることを知らされ、病院継続のためには改革を断行しなくてはいけないと痛感した」。
神野理事長の改革の一手は早かった。院長に就任した同じ年の12月、SPD(Supply Processing & Distribution)システムの導入に踏み切った。SPDとは病院内の物品の供給と管理を一元化、かつ円滑な配送を実現するものだ。バーコードを使った診療材料の管理をスタートした。これにより無駄な発注・在庫を削減し、診療材料で年間約8600万円のコスト削減を実現。SPDは、臨床検査や薬剤、それぞれの領域にも応用し、診療材料とほぼ同額か、それに近いコスト削減につなげることができた。
2021年度から順次導入したRPAは、働き方改革を進めるのが狙いだ。これにより、定型業務やデータ収集などの効率化が進み、初年度は9000時間を削減。現在は70機のRPAが稼働し、初年度以上の効果を生み出している。