PHRで患者参加型医療の実現
恵寿総合病院は病院DXで、患者が医療に積極的に参加できる環境を整備している。2017年9月には、患者が診療情報などをスマホやタブレットでいつでもどこでも閲覧できるPHR(パーソナルヘルスレコード)サービスの提供を始めた。PHRとは人が一生涯の健康・医療情報を自ら管理しようというツールだ。病院にとっては患者に自身の情報を持ってもらうことで健康管理への意識を高めてもらおうという思いがある。また、医療の現場では医師などの医療者と患者の情報量が大きく違うことを指す、いわゆる「情報の非対称性」が生じて、コミュニケーションが阻害されるとの指摘があるため、それを解消する狙いもある。
神野理事長は「PHRは未病や健康維持だけでなく、例えばがんの患者さんならば、腫瘍マーカーがどうなっているかを医療者と共有し、とてもつらい抗がん剤治療をしたとして、データがよくなったことを互いに確認できるようになれば、その後も治療を継続しようということになるかもしれない。PHRは参加型医療の時代に必要だ」と話す。
PHRでは健康診断の結果を紙でなく、スマホなどの画面上で過去と比べたり、エックス線やマンモグラフィなどの検査画像を確認したりできる。健診で医師が「要精密検査」と「要治療」と判断した人に対して、健診結果が届いた後、2週間が経過したタイミングに「受診勧奨メール」を送信して、仕事などが忙しくて病院を受診することを忘れてしまった人に来院を促し、病気の早期発見・治療につなげている。
理事長補佐が経営に参画、病院DXが一段と加速
神野理事長のスピード感ある経営手法は、父である正一・前理事長譲りだ。前理事長は恵寿総合病院の前身である神野病院が1964年5月に厚生省(当時)令で救急指定を受けると、同年9月には救急病棟を新築。同時に購入したベンツ社製の救急車は、七尾の街を走り回り大活躍した。同社製救急車は日本第1号だったという。30年間に渡り圧倒的なスピード感で改革を進めてきた神野理事長に2020年4月、頼もしい右腕が現れた。金沢大学消化器内科の医局に所属していた神野正隆氏が恵寿総合病院に入職し、消化器内科科長として臨床の第一線に立ちながら理事長補佐として経営に参画し、病院DXを推進している。
神野理事長補佐はMBA(経営学修士)ホルダーでもある。祖父および父親譲りのスピード感のある経営手法で新たな仕組みとして、徹底的にデータを活用するデータ経営を法人内で一気に浸透させ、病床の効率的な運用を図りつつ、患者の流れをスムーズにする入退院管理システム「PFM(Patient Flow Management)を2022年4月にスタートさせた。
PFMとは入院前や入院早期から患者の情報を収集して、安心・安全な入院生活や退院に向けた支援をするものだ。加えて「恵寿式PFM」は入退院に関わるあらゆる指標をリアルタイムに俯瞰的に捉えるモニターを内製化し、効率的な院内外のベッドコントロールを実現している。PFMは着実に結果を出して、病院の収益面でもプラスに働いている。
今年4月、院内の通信手段を全面的にスマホにした。スマホは病院スタッフが働きやすくなるためのツールととらえている。これまでのPHSなどによる音声通信の手段は、受け手の作業を妨げていた。活用方法のほんの1例としては、スマホのチャット機能を活用することで、情報の送り手は、相手に確実に状況を伝えることができるようになり、受け手は作業の手を止めることなく多職種で同じ情報を共有(1対1から1対多の情報共有)できるようになった。
神野理事長補佐は「データなどを活用したDXは職員の働き方改革を後押しするためのもので、職員の挑戦を促し、満足度を上げるためのものだ」との確固たる信念を持っている。また、「病院内にはまだまだたくさんの有益なデータがある。それらのデータを一元管理し可視化することで、働く環境の改善活動を促し、職員それぞれの職能を存分に発揮し、本来の業務により専念できるようにしたい」と意気込む。
また神野理事長補佐は、臨床面からの医療の質向上や予防医療のための取り組みもしている。金沢大学病院と連携しながら、石川県では初の「膵がん検診」を2021年からスタートし、無症状の段階の早期膵がんを高い確率(受診者の5%)で発見し、早期治療につなげている。