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2023.06.30 20:00

生成AIで拓く新しい世界 Building a New World with AI

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「AI経営」の最前線を伝えるために2020年に始まった、PwC JapanグループとForbes JAPANによるオンラインイベント「AI Summit」。その最新版「AI Summit 2023-生成AIを経営に実装せよ-」が2023年6月29日に行われた。

最終セッションとなるSession 3.のテーマは「Building a New World with AI生成AIで拓く新しい世界」。生成AIの実装および向き合い方について、深掘りする議論となった。


登壇者は、日本のAI(人工知能)研究の第一人者、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター 教授/日本ディープラーニング協会理事長 松尾 豊と、物流業界でDX、AI活用を進めるヤマト運輸 執行役員(輸配送データ活用推進担当) 中林紀彦、かねてよりAI経営の必要性を謳ってきた、PwCコンサルティング 執行役員 パートナー、エクスペリエンス センター所属馬渕邦美の3名だ。

モデレーターは、Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長 谷本有香が務めた。

いままでのAIと生成AIは何が違うのか

近年急速に注目を集めている、ChatGPTに代表される生成AI(ジェネレーティブAI)。まず松尾が解説を始めたのが、従来のAIと生成AIの違いだった。

「画像と言語をわけて考える必要がありますが、言語に関していうと、その原点は、2017年に論文発表された、AIに人間が使う言語(自然言語)を学習させる技術『トランスフォーマー』にありました。このモデルは、大規模に学習させるほど精度が上がるという特徴をもっており、膨大なパラメータ数をもつ巨大なモデルをつくる競争が起こっていました。そうして登場したのが、インターネット上の豊富な情報を取り込んだ、オープンAIによる生成AI・ChatGPTです。

研究者界隈では、2020年のChatGPT 3が投入された時点で、大きな衝撃が広がっていましたが、昨年11月に発表されたバージョン3.5より、一般層にも浸透し一大ブームとなっています。

生成AIの普及の特徴は、そうした“民主化”にあります。多くの人々に使われることで、研究者も驚くようなさまざまな使い方が、着想されるようになりました。そこから生成AIのトレンドが一気に加速し始めたのです」
松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター 教授/日本ディープラーニング協会理事長

松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター 教授/日本ディープラーニング協会理事長


この解説に大きくうなずいたのが馬渕だ。長きにわたってAIを経営の中枢に取り組むべきとする「AI経営」に関する講座を松尾と推進してきた馬渕は、現在の生成AIブームに感慨を感じるという。

「これまではプログラミングが必要であったが、日頃使っている言葉そのものでAIを使えるようになったことが大きな飛躍。AIは一気に身近な存在になり、民主化につながったのであろうと考えています」
馬渕邦美 PwCコンサルティング 執行役員 パートナー エクスペリエンス センター所属

馬渕邦美 PwCコンサルティング 執行役員 パートナー エクスペリエンス センター所属


こうした大きな変化は、私たちの生活、従来の働き方や学び方なども変わらざるを得ない状況になってくるのではないか。モデレーターの谷本が投げかけた問いに松尾が答える。

「私たちは日頃、言葉を使って暮らしています。AIが言葉を扱うようになれば当然、暮らしのなかにAIは入り込んでくるでしょう。生活、仕事、組織、教育、それこそ社会全体に至るまで、大きなインパクトを与えるはずです。

なぜならいままで、人間が行うことで手間がかかり不可能だったことが、次々に実現するようになるからです。一人ひとりに適したかたちで情報を伝える、あるいは教育を行う、仕事を頼む、といったこともできるようになり、可能性は想像を超えて広がっていきます。」

さらに松尾は、生成AIがもつ最大の特徴といえるスピード感について例を挙げる。

「例えばChatGPTのAPI(他のソフトウェアで利用を可能にする仕組み)を活用して、何かしらのサービスを立ち上げるとします。早ければ一週間かからずに、プロトタイプができてしまうのです。新規事業への参入障壁は、もはや以前と比較にならないほど低くなりました。これまでの実績の蓄積はいったんリセットされる状態になるので、チャレンジしようとしている企業にとって、この上ないチャンスが訪れているのです」

生成AI・ヤマト運輸での取り組み状況

そうした生成AIによって訪れた、企業成長にとっての千載一遇のチャンス。では実際に、企業ではどのように活用しているのだろうか。ヤマト運輸で物流のDXを推進している執行役員の中林が、自社の取り組み状況を語った。

「弊社はデータ・ドリブン経営への転換を掲げ、データ分析とAIを活用した需要と業務量予測の精度向上によるトラックの配車計画や人員の最適配置などを進めています。また電話での集荷依頼で音声認識技術を活用するなど、AJを導入し自動でお客さま応対を行う仕組みを構築しています。しかし、社内で蓄積したFAQなどのテキスト情報はうまく使いこなせていませんでした」

その突破口として中林は、新技術「トランスフォーマー」をいち早く導入したという。蓄積した情報をもとに、対話形式で答えるFAQチャットシステムの実証実験を行なったのだ。

「これまで試してきた手法よりも実用的で精度の高い回答を得られることが検証できました。今後は、業務全般で活用できるシステムの構築、基盤の整備を行っていきます」

これまでDX時代のAIを考えるときは、まずビジョンを描いて何がしたいか、そのためにどうAIを活用していくか、という考え方だった。そこからのAI戦略の設計の変化について、松尾は次のように整理した。

「2012年頃、ディープラーニングによる画像認識技術が、シーズ(種)として広まりました。そうした技術やツールを実際の事業にどう使うかという議論が進み、顔認証や画像診断などとして結実したのは2015年以降です。

そういったツールを経営や事業にどう生かすか、という議論が2018年頃に盛り上がり始めたのが、DXのためにAIを活用するという文脈でした。

生成AIはまたシーズの話に戻り、『いままでできなかったこんなことが、生成AIでできるようになりました。さあどう事業に活用すればいいのでしょうか』と問われているタイミングなのです」

松尾の言葉に対して、中林は大きく同調する。

「画像認識技術の導入を検討した際と同様で、シーズの段階でいかに早く技術活用の検討に取り組み、知見を深めていくことができるかが非常に重要です。生成AIがまさにそのフェーズだと考えています。シーズを実際のサービスとして実装するために、クローズドな環境で社内にプラットフォームを構築し、事業部門と使い方も含め試行錯誤を行っています。そのなかでより適切なシーズを選び、新しいサービスへ適用していくことを考えています」

積極的な活用を検討する一方で、中林は企業として生成AIを活用していくうえでの2つの課題について指摘をしている。

「1つ目の課題は、デジタルプラットフォームのセキュリティ部分に生成AIをどのように組み込むのかということです。企業のなかでChatGPTなどの生成AIを使うためには、セキュリティが担保されたクローズドな環境を構築し、厳格に運用する必要があります。2つ目の課題は、著作権の管理です。社外へ公開した際に著作権侵害にあたるのかなど、整理していく必要があります」

生成したデータの著作権侵害問題について、松尾からも現在の考え方について説明された。

「生成AIの著作物に関しての見解は、5月に文化庁が示しています。つまり既存の著作物との類似性や依拠性(既存の著作物を参考に創作)が認められればアウトということです。これはAI以前と変わらず、しっかり遵守する必要があるということです。

ただこのスピード感で文化庁が声明を出したというのは、それだけ生成AI技術に強力なインパクトがあることの証明だと思います」

今後日本が目指していくべき方向〜実装までのロードマップ

では実際に生成AIの実装に至るために、日本はどのような方向を目指すべきなのか。米国でスタートアップ設立や数々のCEOを経験してきた馬渕は、生成AI技術に関連する特許技術の出願件数について、米国が突出していることについて松尾に意見を求めた。

「確かに米国は、生成AIでの大きなアドバンテージがあります。しかし同時に、特許保有企業が著作権侵害をみだりに主張せず、普及に舵を切っているようにも見えます。そこは高く評価すべき点です」

ただそのアドバンテージが将来にわたって続くかどうかには、松尾は疑義を発した。

「インターネット革命では、日本は明らかに出遅れました。そもそも技術的に先行すること自体、日本にとってはまれです。しかし技術が普及し、それぞれが使い方を創意工夫する段階となると強いのです。

今回の生成AIブームは、世界と日本が同じタイミングで気づき、まずは使ってみようという空気になっている状態です。日本では珍しく、出遅れていません。また、創意工夫して使い方を模索するような方向性は、日本でも力を発揮しやすいと言えると思います。日本企業が創意工夫を重ねて大規模言語モデル(LLM)を使っていくと良いのではと思います」

馬渕からは、日本企業において生成AIを積極的に活用している業種・職種と、そうではない業種・職種について、PwCの独自調査結果から指摘する。

「PwCの調査では、生成AIをDX、IT、事務、研究部門などへ積極的に活用していきたいと考える企業は少なくありません。そういったなかで、生成AIを知らないと回答したグループのなかには、建設・物流・不動産といった業界が目立つ結果となっています」

生成AI活用の際に必要な企業の姿勢について、中林はビジネスユーザーの積極的な関わり方が重要になると考えている。

「経営層や事業部門に生成AIを活用してもらうことが重要だと考えています。生成AIの可能性を理解し、従来のビジネスを変革するために活用してほしいと思います。そうすれば日本企業が成長する可能性は、より大きく広がっていくと思います」

生成AIとどう向き合っていくべきか

生成AIで日本が勝ち抜いていく光景について議論されると同時に、いまだに「AIが人間の仕事を奪う」という言説は少なくない。そうならないために、人間にできることはあるのだろうか。最後に、生成AIとの向き合い方についての議論が行われた。

馬渕はこれまでのインターネット革命、スマートフォンの登場に倣って説明する。

「そこで起こったのは、人間が(インターネット、スマートフォンの)力を得たということです。確かに数パーセントの職業はなくなるかもしれません。しかし8割以上の人々は生成AIの影響を受け、仕事でいかに使いこなすかを考えていくことが重要です」

議論を聞いた谷本は、これまで文章、画像などに対して、技術面であきらめてしまい、クリエイティビティを発揮できなかった人が、生成AIの登場によって参戦する世の中になると予想した。
谷本有香 Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長

谷本有香 Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長


ではそんな時代にあって、企業はどのように優位性を確保すればよいのだろうか。

谷本の問いに対して、中林は以下のように示唆した。

「人間の仕事が、すべて生成AIに置き換わるわけではありません。人間が能力を発揮できるようにサポートするのが生成AIです。人間と生成AIがお互いに学び合いながら仕事の質を向上させ、クリエイティビティを発揮できる能力を育成することが企業の競争力になり、差別化のポイントになると思います」

そのうえで、筑波大学の客員教授としてデータ分析を教える中林は、近年気になっている「学生の知識レベルの逆転現象」について言及した。

「データサイエンスの講義を担当して10年立ちますが、今年の大学院1年生はChatGPTを身近に利用しています。データ分析やAIの講義では、積極的にChatGPTやGitHub Copilotを活用しています。10年前の学生と比べて、すでに知識やスキルが高い状態にあります。

企業は、そうした優秀な人材を生かす人事制度や評価制度を準備しておくことが大切です。それが企業の成長に直結すると考えています」

そうした変化の一方で、生成AIの時代になったとしても、人間の発想力は重要だと馬渕は強調する。

「文章を書く、絵を描くなどのクリエイティブな技術を、生成AIで得て、どう発想し、使っていくのか。生成AIは人間に能力をプラスするもの。もう一度自分の仕事の仕方を問い直すチャンスでもあるのです」

松尾は生成AIの登場で、予想できない未来がやってくると示しながらも、企業が競争優位性を確立する部分には、それほど大きな変化はないと予測する。

「なぜなら市場、顧客基盤、生産体制などが企業の優位性を左右するという、ビジネスの本質は変わらないからです。しかしスピード感を持った商品企画、業務の進め方、マーケティング領域では大きな変化があるでしょう。

また業務・作業量自体を見直すことができるので、現在人手不足の業界では光明となることは確かです。

生成AIへの向き合い方とは、人間にしかできない面白がり方、使い方を見出していくことなのだと思います。それは企業だとしても同じ。きっとその先に解があるはずです」



松尾 豊◎1975年生まれ。香川県坂出市出身。東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター 教授/日本ディープラーニング協会理事長。日本のAI(人工知能)研究、AI活用ビジネスの第一人者。

中林紀彦◎2002年、日本アイ・ビー・エム入社。オプトホールディング データサイエンスラボ副所長、SOMPOホールディングス チーフ・データサイエンティストを経て、2019年8月にヤマトホールディングス入社。2021年4月から執行役員に就任し(輸配送データ活用推進担当)重要な経営資源となった”データ”をグループ横断で最大限に活用するためのデータ戦略を構築し実行する役割を担う。また筑波大学院客員教授でもある。

馬渕邦美◎米国のエージェンシー勤務を経て、起業。メガ・エージェンシー・グループの日本代表に転身。4社のCEOを歴任し、米国ソーシャルプラットフォーマー企業を経て、PwCコンサルティング 執行役員 パートナーに就任。エクスペリエンス センター所属。

谷本有香◎証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事。Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長。

Promoted by PwC / text by Fumihiko Ohashi / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro