真っ先に顕著になるのは、ロシアの石油輸出への影響に対する不透明感を受けての原油価格の急騰だ。反乱がすぐに鎮圧されなければ、おそらく間をおかずして5〜10ドル(約700〜1400円)上昇する。
ロシアから西側へのパイプライン経由での輸出は理論的にはリスクにさらされることになるが、戦争関連の制裁措置により、輸出の大半はすでにストップしている。ワグネルがトルコや東欧へつながるパイプラインを攻撃することはないと思われる。これらのパイプラインはまだ稼働しており、またワグネルの部隊は黒海の港から離れたところにいるため海上輸送に影響がおよぶ可能性は小さい。
だが戦闘が激化している間、あるいは戦闘が小康状態であっても、石油の生産と輸出が影響を受けるかもしれないという懸念から、原油価格は間違いなく反発する。幸い、現在のところ市場はおおむね安定しているため、適量の供給が失われる恐れがあっても、パニック的な(あるいは将来に備えた)買いは起こらないはずだ。だが紛争が拡大すれば、原油価格は圧力の高まりに直面する。それでも、愛国主義や検閲、弾圧によりロシア国内の反体制派は鳴りを潜めているため、政情不安が社会に広がる可能性は低いと思われる。
長期的には影響は大きく異なるだろう。プーチンが危機を切り抜けると仮定しても(その可能性は高いと思われる)、プーチンの政治的弱点がむき出しになり、それを補おうと半年どころかもっと長期的に石油の生産が増え、価格は下がることになるのはほぼ確実だ。ウクライナでの戦争はチェチェン紛争よりアフガニスタン戦争に似ている。戦争に労力を注ぐことは強硬派には魅力的かもしれないが、プーチンは苦々しくも折り合いをつけ、泥沼から抜け出す道を模索する可能性が高そうだ。
短期的には、ウクライナ政府と何らかの合意(休戦または和平)を模索することで、プーチンはまず大きな代償をともない、失敗に終わった侵攻に怒る人々の反発を抑え、国内の政治的支持を強化するための時間と余地を確保することができる(言い換えると、右派つまりより攻撃的な軍事行動を要求する批判的な人々の粛清と弾圧の強まりが予想される)。