マネー

2023.06.26 17:00

なぜ経営者は「オカネ」について自問が必要なのか

コロナ禍の日本では、ゼロ金利融資、雇用調整助成金、事業復活支援金など多くの緊急支援策が行われたが、果たしてその功罪は。税理士で日本の経営者にマネーワークを広げる活動を行う青野英明に寄稿してもらった。

令和5年3月13日より、マスクの着用は個人の判断に委ねられました。これを契機に、人々はコロナ以前の生活様式を取り戻しているようです。企業経営も同様で、設備投資・新規出店・大規模な新卒採用など、減少した売り上げ・利益を取り返そうとする動きが活発です。

このような変化の激しい世の中だからこそ問いたいことがあります。

皆さんにとって、オカネとは何ですか?

私は顧問契約をする前に必ず聞くことがあります。「あなたは人生で何をしたいのですか?」と。利益を出したい、売り上げを上げたい、という答えがもちろん返ってくるのですが、「どうして売り上げ・利益が必要なのですか?」と深掘りすると、「集まってくれた社員さんにオカネや福利厚生などで返したい」とか、「人の笑顔が好きなんだ。だから環境改善をしたい」などという答えが多いようです。

しかし、目標としていた売り上げ・利益を達成しても、当初の答えとは異なる行動をする人がとても多いということを経験しています。

「この利益ってほとんど私(社長)が獲得したものだよね?」「来年も同じ利益が出たら賞与で還元するよ」などなど。

当初はそのような性格の人なのかな?と思いましたが、実際の経験で、大半の社長がこのような不一致な発言をするので、これは性格の問題ではない、何か大きなとらわれがある!と確信するようになりました。

少し昔にさかのぼりましょう。令和2年の4月といえば、国民に10万円の給付金を支給するということが決定された時期です。この給付金を皮切りに、打撃を受けた事業者に多くの給付金・補助金・支援金が支給されるようになりました。ゼロ金利融資、雇用調整助成金、休業支援金・給付金、事業復活支援金、事業再構築補助金などなど。

私はゼロ金利融資において、同じようなオカネへのとらわれを観察することになりました。「何かあったら大変だし、使わなくてもゼロ金利だからとりあえず借りておこう」といって人々は融資を申し込みましたが、据え置き期間も終わりに近づくと「返済が始まるのが怖い。何か新しい事業を起こして、その事業の利益で返済できないものか?」という相談が激増したのです。
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文=青野英明 イラストレーション=トミー・パーカー

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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